望んでいた奏者 映画『セッション』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:ジャズやりたくねえ……
あらすじ
ニーマン(マイルズ・テラー)世界に通用するジャズドラマーになろうと決意するが、彼を待ち受けていたのは鬼教師として名をはせるフレッチャー(J・K・シモンズ)だった。
フレッチャーはひたすら罵声を浴びせ、ときには暴力も振るい、ニールマンの「完璧な演奏」を引き出そうとする。
弱冠28歳(撮影時)の新鋭監督デミアン・チャゼルによる監督・脚本による、ジャズ・ミュージシャンをテーマとした作品です。
監督は以前にも『グランドピアノ ~狙われた黒鍵~』という作品で、脚本を手掛けていました。
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この映画の内容は、完璧にピアノを演奏しなければ(物理的に)殺されるというたいへん愉快なもの。
本作『セッション』では超絶鬼教官と、その鬼教官から下手すれば殺されるんじゃないかと思えるほどのしごきを受け続ける青年の姿が描かれます。
音楽をやっていて命の危険があるってどういうことだよ……
監督は何か音楽に対して恨みでもあるんだろうか?と思っていたら、実際に高校時代に超厳しいジャズバンドに所属し、そのときの経験がこの『セッション』に生かされているのですね(そのときの指導教官が、作中の鬼教官のモデルになった)。人生何の経験が、どう役立つか、わからないものです。
本作には『サウンド・オブ・ミュージック』のようなハッピーな音楽映画ではなく、狂気に充ち溢れまくっている主役ふたりのドラマを堪能すべき内容です。
主人公はなぜ音楽に固執するのか?
鬼教官はなぜあそこまで完璧を求め、演奏者に罵声を浴びせるのか?
そこには単純でなさすぎる、人間としての「業」が垣間見えるのです。
その狂気を体現したような、激しいドラムが主体の音楽の数々は、ボキャブラリー不足の自分ではとても表現しきれないほど素晴らしいものでした。
![]() | Original Soundtrack 1547円 powered by yasuikamo |
マイルズ・テラーとJ・K・シモンズの演技もまさに圧巻。
どちらも感情移入を阻むような狂気をはらんでいながらも、ときには親しみやすい表情をも浮かべる……この感情表現のさじ加減も見事です。ていうかJ・K・シモンズは怖すぎて、とても『スパイダーマン』シリーズの器の小さい編集長と同じ人とは思えません。
ちなみに、本作はジャズ・ミュージシャンの菊地成孔さんが猛烈に酷評しており、その文がネット上で話題を呼んでいました↓
<「セッション!(正規完成稿) - naruyoshi kikuchi INTERNET TROISIEME>
こちらの町山智浩さんによる記事では、概要と解説、そして批判への真摯な意見がまとめられています(ネタバレが途中からありますが、警告文あり)↓
<菊地成孔先生の『セッション』批判について - 映画評論家町山智浩アメリカ日記>
菊地さんが書いているのは酷評ではありますが、ジャズを愛しているからでこその文であることが伝わってきます。
中でも「(黒人の音楽だった)ジャズを、白人が(スパルタ的に)教えるのはジャズ自体を衰退させるような行為」だという指摘にはうならされました。
また、「この程度の鬼バンマス(バンドマスター)は、実際の所、さほど珍しくない」と書いてある(しかも2回)ことも衝撃的でした。
余談ですが、菊地さんは映画批評本も出版されていたのですね。
![]() | 菊地成孔 1944円 powered by yasuikamo |
ジャン=リュック・ゴダールの作品を音楽と愛という視点から読み解き、あの超賛否両論作『大日本人』までも解説している本と聞いて俄然読みたくなってきました。
さらに余談ですが、ホラー映画『ブラック・スワン』について、バレリーナのタマラ・ロホさんがこれまた痛烈に批判していたこともありました↓
<タマラ・ロホの「ブラック・スワン」批判: la dolce vita>
『ブラック・スワン』も本作も、その仕事には絶対に就きたくなくなるという点でも共通していますね。
ジャズには門外漢の自分からすれば、本作の演奏は「とにかくすごい!」という感想しか出てきませんし、予告編でも観れる「テンポのずれ」なんてぜんぜんわかりません。
でも、そうした目線で映画を観るということで、「素人目では十分すごい演奏を、さらに完璧にまで仕上げる」ということの狂気が伝わってくるのではないでしょうか。
むしろ、音楽(ジャズ)への愛がある方ほど、主人公ふたりの屈折した心情、行き過ぎたレッスンに嫌悪感を覚えるのかもしれません。
菊地さんが批判をしていることも、そういう内容だしなあ……
自分は、ジャズに興味のない、ジャズをまったく知らない人にこそ観てほしいと思いました。
「ジャズってもっと楽しくて、ゆるいもんなんじゃないの?」と思っている人(自分含む)にとってはいい刺激剤になり、ジャズに興味を持つきっかけになるのではないでしょうか。レッスンは受けたくないと思うだろうけど(鬼教官が怖すぎて)。
※実際にジャズを演奏されている民朗さんから素晴らしい意見をいただいたので、そのまま記載します。
私は個人的に趣味でですがジャズをビッグバンドでも演奏しているので、本作をとても期待しているのですが、
その反面でヒナタカさんも書かれている様に「ジャズって怖い、小難しい音楽だなー」と一般の人に思われるのがとても嫌でした。
唯でさえ、ジャズというジャンルの音楽は普通の人にとっつき難いと思われている(と私は思っている)ので、それを更に助長されたら辛いなと思ったのです。
また、ジャズ好きには所謂選民思想を持った人が少なからずいてしまっているので……。
本作は菊池さんに反論している町山さんのレビュー(肯定している所は肯定している姿勢がとても素晴らしい)にある通り、監督の個人的な感情を描くために題材としてジャズを選んでいるだけだと思うので、この映画に描かれている音楽を一般的なジャズな世界だとは考えて欲しくないなぁと個人的には危惧しています。
勿論、プロは血反吐を吐こうが練習をするでしょうし、菊池さんが指摘している通り殴る蹴るで指導する鬼の様なバンマスはザラに居ます。私はそういう過程で生まれた音楽は積極的に肯定出来ませんけども。
けれども和気あいあいとセッション(少人数で集まって即興演奏する形式)する楽しさや、決まったメンバーで楽しく演奏するビッグバンドの良さも、ジャズにはあるということを知ってほしいなぁと思います。そういった意味では『スウィングガールズ』はとても良く出来た映画でした。
少なくとも、この映画を観てジャズって怖い音楽なんだって観客の方々が興味を無くされるとイチジャズ好きとして非常に複雑な気持ちになる気が致します。
本作は、「衝撃のラスト9分19秒!」というキャッチコピーがつけられていますが、それは伊達ではありません。
シーンそのものを切り取っただけでも超絶技巧の演出がなされていることがわかるのですが、これまでに積み上げられらた伏線がすべてここに集約されたようなラストなのです。
数々のドラマをおもしろく仕上げながら、ここまでラストへのカタルシスを得ることができる構成……これは賞賛するしかありません。
アカデミー賞3冠、本国でとびきりの高評価ということで期待する人も多いでしょうが、決して万人向けではないと思います
その理由のひとつが、主人公ふたりがイヤなやつすぎること。
こいつらは音楽キ○ガイと言っても過言ではなく、世間一般の人たちとは異なる価値観を持っています(そこがおもしろいところなのだけど)。
ドラムばかりの音楽も含めて、意外と『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と似ている作品と言えるかもしれません。
少なくとも、『ブラックスワン』をバレエを習っている子どもに見せたくないことと同じく、ジャズを志す少年少女たちにはあんまり見せたくない感じです(笑)。
まあ音楽界の厳しさを知る、夢を追う覚悟を決めるには、絶好の教材なのかもしれませんけどね。
※ハッピーなジャズ映画には『グレン・ミラー物語』があると、コメントで教えていただきました。
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自分は未見でしたが、子どもやジャズを知らない方には、こういうハッピーな作品のほうを観てほしいなあ……
※さらに『ラウンド・ミッドナイト』もいいよ!と意見をいただきました。
![]() | デクスター・ゴードン 991円 powered by yasuikamo |
ジャズ界の巨人のひとり、デクスター・ゴードン(テナー・サクソフォーン担当)が主演を務め、アカデミー賞主演男優賞候補にまでなった作品だそうです。
※さらにさらに、アニメ『坂道のアポロン』もいいよ!と意見をいただきました。
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<坂道のアポロン-Youtube>
<原作漫画の立ち読みはこちら>
自分は原作漫画を少し読んでいたのですが、すっきりした画、登場人物の心理描写、1960年代というレトロな時代背景など、素敵な要素が満載の作品でした。
作中には以下の実在の人物・用語が出てくるので、観る前に予習してみるのがいいかもしれません。
<ジャズ・ミュージシャン>
・バディ・リッチ
・チャーリー・パーカー
・ジョー・ジョーンズ
<ジャズ用語>
・ルーディメンタルドラミング
・オカズ(フィルイン)
<そのほか>
・ジェイ・レノ
・ビリー・ゼイン
本作の前に(後でも)観ておくといいのが、チャーリー・パーカーの生涯を描いた映画『バード』です。
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『セッション』には、チャーリー・パーカーにまつわる有名なエピソードが出てくるので、観ておくと作品をより深く知ることができるでしょう。
そのエピソードについてはこちらで↓
<Bird Lives: 青年時代 その2>
とにかく、これはおすすめです。
これだけの人間ドラマを描きながら、上映時間は1時間47分とコンパクトなのも長所。
これほどの「演奏」は、劇場と言う場所でこそ堪能する価値があります。
映画ファンはもちろん、すさまじい人間の生きざまを観たい方は、ぜひ。
↓以下、結末も含めてネタバレです。観賞後にご覧ください。
~わからなかったこと~
ニーマンが預かっていた、座席に置いたまま消えた楽譜は誰が取っていったんでしょうか。
しっかり暗譜をしていたニーマンが、これのおかげで主奏者に選ばれたというのも皮肉な話です。
フレッチャーが、「朝の6時からだ、遅れるな」とニーマンに言っていたのに、実際に練習が始まるのが9時だった……というのは、フレッチャーの「朝からしっかりと練習しておけ」という心配りなのか、それとも「厳しすぎる(叩き潰す)指導」なのか……たぶん後者ですが。また、後にニーマンが遅刻した理由が、バスの故障なのか、乗り間違えなのかがよくわかりませんでした。
ニーマンは練習のときにも寝坊していたこともありましたし、案外抜けているところもあるのかもしれません。
※以下の意見をいただきました。
こちらですが、イヤホンでイメトレに没頭していたニーマンが車の振動に驚いてイヤホンを外すシーン→パンクしてボコボコになったバスのタイヤが映っていた ため、バス側のトラブルだったかと思います。
フレッチャーは、自分の教え子のショーンが事故ではなく自殺であったことを知っていたのでしょうか。
もし知っていたとしたとしたら、ミュージシャンたちに向けて涙ながらに「事故にあって亡くなった」という言葉はウソということに……。その涙が、白々しいものに思えてしまいます。
~ニーマンの価値観~
ニーマンは、音楽家として偉大になることを夢見る青年でした。
彼の行動原理は、ただジャズ・ドラマーとして成功することだけ。
ほかのことに興味がない(手を出そうとはしない)のは、父親といっしょに映画館に行ったときの「視野を広げたくないよ」という台詞や、ベリーを避けてポップコーンを食べるということでもわかります。
ニーマンは、一家団欒の席ではアメフト選手として成功している親戚に「三流の大学チーム」と、空気を読まないことを言ってしまいます。
そして、90歳で金持ちのまま死ぬよりも、34歳で無一文になり夭折したチャーリー・パーカーのほうに憧れる・・・・・・。
ニーマンがジャズ・ドラマーを志した理由には(フレッチャーには「理由があるからだ」とだけ告げていましたが)、きょうだいがすべて優秀で、社会的に成功を納めていたことへの嫉妬もあるのではないでしょうか。
そこには「偉大な音楽家になりたい」という単純な「夢」ではない、まさに狂気と呼べる音楽への「固執」を感じるのです。
さすがにニーマンはひとりの男として彼女はほしいようで、映画館のバイトをしている女の子に声をかけてデートにこぎきつけていました。
しかし、ニーマンは、大学に入ったのに専攻も決まらず、やりたいことが見つかっていない彼女のことを理解できなさそうな表情を浮かべていました。
さらに、ニーマンはジャズの練習に入れ込むため、彼女に「どうあってもけっきょくケンカになる」「君はジャマになる」とほざき、一方的にフるのです。
彼女の気持ちなんて、何も考えずに・・・・・・。
後にすべてを失ったニーマンは彼女とヨリを戻すため(コンサートに誘うため)に電話で謝るのですが、そのときには別の彼氏ができていたというのも皮肉的です(自分の行動で失ったものなので、自業自得なのですが)。
さらにニーマンは演奏に遅刻にしそうになり、レンタカーでぎりぎり駆けつけたとき、「これは僕の演奏するパートだ!あんたのものじゃない!」と頑なに主張します。
しかもその後車に戻って、事故に遭ってしまい、血だらけになっても、演奏を続けようとする。
さらには「終わりだ」と告げるフレッチャーに暴力を加えようとして、退学を命じられる・・・・・・。
のはやエゴイスティックを通り越して、もはや人格破綻者とも呼べる勢いですね。
地味に怖かったのが、ほかのジャズ演奏者がフレッチャーにダメと言われたとき、ニーマンがほんのちょっとだけ笑顔になっていることでした。
微笑とも呼べない、ほんの少しだけ口角があがるような笑いかたなのですが、ニーマンの「成功のためには、他人を蹴落としてもいい」という気持ちが垣間見えてぞっとしました。
~フレッチャーはなぜ奏者を追いつめる?~
映画を観ていて意外だったのは、この鬼教官のフレッチャーがときどき親しみやすい笑顔も振りまいていたこと。
決して「鬼」だけではないのですが・・・「アメとムチ」を使い分けているようで、むしろずっと怒っているよりも怖かったよ。
(フレッチャーが幼い女の子に、「君は将来ピアノに決定!」みたいな感じで言うのはマジで怖い)
なぜフレッチャーは、あそこまで完璧な演奏を求めていたのでしょうか。
作中では「第二のチャーリー・パーカーを育てるため」と言っていましたが、それだけではないと思います。
彼の行動原理には「ジャズ奏者を叩き潰したい」という屈折した気持ちが少なからずやあると思うのです。
序盤ではひとりだけ音程が違うトランペット奏者を追求し、小太りの男の子に「音程が狂っていると思うか?」と責めます。
この男の子は退場を命じられるのですが、その後にフレッチャーは、別のトランペット奏者に「音程が狂っているのはお前だ、自覚がないのが問題だ」と告げるのです。
男の子とばっちりじゃん・・・・・・めっちゃかわいそうなんですけど。
ほかにも、めったに演奏を褒めることがないフレッチャーは、チャラ目の青年が適当な演奏を見せたとき、「完璧だ!主奏者になる日も近いな!」と絶賛します。
さらにはフレッチャーはドラム演奏のテンポに異常にこだわります。
3人のドラマーを代わる代わる、何時間にも渡り、手からいくら血が出ようとも演奏させるのです。
フレッチャーは、教え子だったショーンという青年を事故で失ったとミュージシャンたちに涙ながらに告げていましたが、実際は首吊り自殺でした。
後に弁護士からはそのことを訴えられ、フレッチャーは辞職に追い込まれてしまいます。
フレッチャーは、久しぶりに出会ったニーマンに「並の教師にはできないようなやりかたをしてきた、それに対しては決して謝らない」と告げました。
フレッチャーは、ショーンが事故で死んだと言ったときには何度も(それを聞いているミュージシャンたちに向けて)「すまない」と言ってはいましたが、行きすぎた指導そのものには決して反省はしない・・・・・・。
それは、彼にとってその指導が「正しい」ことだからなのでしょう。
たとえ、その者がドラマーを辞めたり、自殺にまで追い込んだとしても。
フレッチャーはなんとも屈折した、共感できない人間でした。
何よりも、フレッチャーが「叩き潰す」ことまでもを考えていたことを示すのが、ラストの展開でしょう。
ニーマンはフレッチャーに誘われて、コンサートに出席します。
しかし、それはフレッチャーの罠でした。フレッチャーは嘘の曲目をニーマンに渡していたのです。
このコンサートは、スカウトに観られる場であり、そこで失敗すれば二度と成功することができません。
これは「厳しい指導」などではなく、フレッチャーが(勝手に行きすぎた指導を密告したと思っている)ニーマンへの復讐とも言える行為です。
※コメントで、実際にニーマンの密告がフレッチャー解任の決定打になったいたのでは?というコメントをいただきました。渋々口を開くニーマンを画面が捉えていたようです。
~ふたりの世界~
ニーマンは曲に合わない演奏をしてしまいます。
彼はまばらな拍手だけを観客にもらい、楽屋に消え、父親と抱擁を交わし、立ち去る・・・・・・かと思いきや、違いました。
ニーマンはすぐにステージに戻ってきて、自分が主奏者となりキューを出し始めるのです。
そこでニーマンは汗だくになり、ドラムにはびっちりと汗が落ちます。
観客は画面に映らなくなり、まるで「ニーマンとフレッチャーだけの世界」がそこにあるかのようでした。
そこで映画は幕を閉じました。
これは、フレッチャーが求めていた奏者が現れたという事実です。
フレッチャーが「つぎのチャーリー・パーカーは何があろうと挫折しない」と言った通り、本当に「叩き潰す」行為をしても、心が折れなかったニーマンという男が現れたのですから。
さらに、これは以前にニーマンが主張していた「これは僕のパートだ!」ということを示す出来事でもあります。
究極にまで追いつめ、追いつめられたことで最高のセッションができ、それぞれが求めるものを手に入れた・・・・・・
痛快でありながら、皮肉にも満ちたラストなのです。
~No Two Words~
フレッチャーは、「禁句」としてTwo Word(二言)を挙げていました。
それは「Good Job(よくやった)」です。
最後のふたりが言葉を交わさず、目だけで「会話」をしたのは、そうした賞賛も、罵倒も、何もいらなかったからなのでしょう。
狂気に満ちた行動ばかりをしてきたふたりが、お互いが望むものを手に入れ、ようやくつながりあったー
最高の幕切れでした。
おすすめです↓
佐藤秀の徒然幻視録:セッション~No Two Words
なぜ「セッション」のラスト9分19秒は素晴らしいのか? ~血とビートの殴り合い、恫喝の向こうの涙 - YU@Kの不定期村
実はまだ本作を観ておらず(多分8月になるまで観れない)、ヒナタカさんのレビューもネタバレ以下は読んでいない状態で書いています。
私は個人的に趣味でですがジャズをビッグバンドでも演奏しているので、本作をとても期待しているのですが、
その反面でヒナタカさんも書かれている様に「ジャズって怖い、小難しい音楽だなー」と一般の人に思われるのがとても嫌でした。
唯でさえ、ジャズというジャンルの音楽は普通の人にとっつき難いと思われている(と私は思っている)ので、それを更に助長されたら辛いなと思ったのです。
また、ジャズ好きには所謂選民思想を持った人が少なからずいてしまっているので……。
本作は菊池さんに反論している町山さんのレビュー(肯定している所は肯定している姿勢がとても素晴らしい)にある通り、監督の個人的な感情を描くために題材としてジャズを選んでいるだけだと思うので、この映画に描かれている音楽を一般的なジャズな世界だとは考えて欲しくないなぁと個人的には危惧しています。
勿論、プロは血反吐を吐こうが練習をするでしょうし、菊池さんが指摘している通り殴る蹴るで指導する鬼の様なバンマスはザラに居ます。私はそういう過程で生まれた音楽は積極的に肯定出来ませんけども。
けれども和気あいあいとセッション(少人数で集まって即興演奏する形式)する楽しさや、決まったメンバーで楽しく演奏するビッグバンドの良さも、ジャズにはあるということを知ってほしいなぁと思います。そういった意味では『スウィングガールズ』はとても良く出来た映画でした。
少なくとも、この映画を観てジャズって怖い音楽なんだって観客の方々が興味を無くされるとイチジャズ好きとして非常に複雑な気持ちになる気が致します。
長文駄文失礼しました。
> 『サウンド・オブ・ミュージック』
ジャズな世界の映画と言ったら『グレン・ミラー物語』を挙げて欲しいかなぁ…。
まだジャズにあまり聴きなれていなかった頃(『ルパン三世』くらいしか馴染みが無かった…汗)、この映画を観て惚れ込んだのは良い思い出。「ある電話番号にインスパイアされた」と言って披露する「Pennsylvania 6-5000」がいまだに耳を離れない。
> こんにちは。久々にこちらにコメントさせて戴きます。
> 実はまだ本作を観ておらず(多分8月になるまで観れない)、ヒナタカさんのレビューもネタバレ以下は読んでいない状態で書いています。
ギャース。これ以上民朗さんのジャズ経験者ならではの批評を楽しみにしていた作品はないのに……気長に待ちます。
> 私は個人的に趣味でですがジャズをビッグバンドでも演奏しているので、本作をとても期待しているのですが、
> その反面でヒナタカさんも書かれている様に「ジャズって怖い、小難しい音楽だなー」と一般の人に思われるのがとても嫌でした。
> 唯でさえ、ジャズというジャンルの音楽は普通の人にとっつき難いと思われている(と私は思っている)ので、それを更に助長されたら辛いなと思ったのです。
> また、ジャズ好きには所謂選民思想を持った人が少なからずいてしまっているので……。
もうジャズについてまったく知らない自分は、本当に「ジャズっていやだなあ」と思ってしまいましたから……(書いてしまってすみません)
これはジャズに従事する人にとっては気になるというよりも、嫌悪感を持つのでは、と素人目にも思っています。
> 本作は菊池さんに反論している町山さんのレビュー(肯定している所は肯定している姿勢がとても素晴らしい)にある通り、監督の個人的な感情を描くために題材としてジャズを選んでいるだけだと思うので、この映画に描かれている音楽を一般的なジャズな世界だとは考えて欲しくないなぁと個人的には危惧しています。
本当にこれなんですよね。
作品が訴えたいことのために、ジャズが悪者になってしまったのような印象を受けます。
> 勿論、プロは血反吐を吐こうが練習をするでしょうし、菊池さんが指摘している通り殴る蹴るで指導する鬼の様なバンマスはザラに居ます。私はそういう過程で生まれた音楽は積極的に肯定出来ませんけども。
> けれども和気あいあいとセッション(少人数で集まって即興演奏する形式)する楽しさや、決まったメンバーで楽しく演奏するビッグバンドの良さも、ジャズにはあるということを知ってほしいなぁと思います。そういった意味では『スウィングガールズ』はとても良く出来た映画でした。
民朗さんがあれだけ批判していたスウィングガールズを褒めていることに驚き(そっち?)ですが、そうですよね。
ほかにシオンソルトさんが楽しいジャズ映画を紹介してくれたので、そっちを記事に追記します。
> 少なくとも、この映画を観てジャズって怖い音楽なんだって観客の方々が興味を無くされるとイチジャズ好きとして非常に複雑な気持ちになる気が致します。
> 長文駄文失礼しました。
貴重なご意見、本当にありがとうございます!
拙文を丸々転載、ありがとうございます。とても嬉しい反面かなり恐縮してます 汗。
『スウィングガールズ』は少なくともジャズはオッサンが聴くものというイメージを払拭してくれ、ジャズ人口もグッと増えましたから。その点ではとても価値あるものだと思っています。
シオンソルトさんが挙げられている『グレン・ミラー物語』も古典として勿論ですが、ジャズを扱った映画なら『ラウンド・ミッドナイト』も名作として定番かも知れません。ジャズ界の巨人の一人、デクスター・ゴードン(ts)が主演を務め、アカデミー賞主演男優賞候補にまでなった作品です。
それから映画では無いですが、『坂道のアポロン』というアニメもモダンジャズを題材とした良い作品です。特にセッションに初めて参加する時の初心者(主人公)心境やセッションの楽しさを上手く描いています。
https://www.youtube.com/watch?v=pFHNPkHCW5Y 「坂道アポロン 初めてのジャズセッション」
それから、『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ/アート・ブレイキー』というジャズ史に燦然と輝く大名盤があります。
50年代後期としては最高レベルのクインテットでありながら、そのライブ演奏の内容はとてもホットで、途中から客として居合わせていた歌手が一緒に盛り上がって歌い出す始末。ちょっと演奏時間が15分と長いですが、こういう楽しいジャズもありますという一例として良ければ一度聴いてみて下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=-RZDaina8Qk 「Politely - Art blakey & The Jazz Messengers」
スポ根音楽映画という珍しいジャンルに加え、主演がサム・ライミ版スパイダーマンにて、本から飛び出して来た!と言わせる程の完璧過ぎるJJJを演じてくれたJ・K・シモンズというだけで注目していました。しかし地元に来ねえ!と残念がっていただけなのですが、著名人も声を上げて大変な問題になっており、俄かに危惧しています。
まず、この映画を批判するジャズに関わる方々のお気持ちはもっともです。ですが、決して「こんな映画は撮らせない!」だけは言わないで欲しいのです。
私も少し前に「バードマン」を意識タカい人達が私の大好きなヒーロー映画を扱下ろす作品ではないかと危惧していました(杞憂でした)ので、そのお気持ちは解りますし、何度か本当に作者が観る人を楽しませるでなく、自分の嫌いな物を叩きたい、同じ思いを抱く人達とその嫌悪感を共有し憎悪を増幅させたい。良く知らない人達へその嫌悪を伝播させたい。というだけで描いたような心無い作品にそんな思いをさせられた事もあります。
本作はヒナタカさんが仰るように
>作品が訴えたいことのために、ジャズが悪者になってしまったのような印象を受けます。
だけで、芸術と極める過程、完璧を追及する者の狂気を表現したかっただけで、決してジャズを貶める目的で作った訳ではないと思い居ます。別の職業や芸術や趣味を題材にしても同じ結果になっていたでしょう。
似たような作品では「AKB48」のドキュメンタリー映画では、さっきまでステージでお姫様や妖精のような衣装を着て歌い踊り声援を浴びるという女の子の夢を体現していたお姉さん達が、舞台裏で極度の疲労で倒れ込み嘔吐しているという「芸事の現実」を流し、アイドルファンから「こんな所を見せたら子ども達の夢が壊れる」という非難があったそうですが、私はこれを誠実だと思いました。
今は空前のアイドルブームで、小さな女の子達を視聴者にしたアイドルアニメが放送されていますが、見てみると善人ばかりが登場し、嫌な人も登場しますが誠心誠意を伝えれば和解出来、頑張れば必ず夢は叶うという綺麗事ばかりの世界でした。芸能活動を習い事と同じようにしか考えていないであろう小さな女の子達を相手では、こちらの方が教育上どうかと思います。
※それが悪いという事だけではありません。小さな女の子にはまず興味を持ってもらうという意味での「夢」を与える事も必要だと思います。
※深夜枠で放送される。もう少し年上の子達向けの作品だと学校や町を振興したいという別の目標が有ったり、練習の辛さや、学校や自治体の事業であるが故に生臭い話も出てきたり、青春期を長い下積みに費やして来たのに先輩の大御所アイドルに気に入られただけでチャンスを得てしまった後輩に憤る子や、自らの意識の高さにチームメイトが付いて来れなくなり一人ぼっちになってしまった子など、辛辣な世界も描かれていますが。本気で芸能を目指すなら、小さな子にもこのくらい見せるべきなのではと思います。
また真剣過ぎて批判を浴びる本作の逆パターンで映画にもなった。女子高の軽音楽部を舞台にして大ヒットした「けいおん」という作品は、主人公達のあまりに緩過ぎる部活動に真剣に軽音楽を志す人達から非難の声もあったそうです。他にもポップ歌手を志す青年が紆余曲折の末にデスメタルで音楽の才能を開花してしまい、周囲の期待や事務所の圧力から嫌々歌手を続ける「デトロイト・メタル・シティ」もメタルファンから同様の批判もあったそうです。
それにジャズに携わる人達がこんな人ばかりでないように、実際にニーマンやフレッチャーのような人達だって居る事でしょう。みんなで仲良く楽しくも良し、血反吐を吐くまで芸術を極めるも良し、自由なのがジャズだと。視聴者が木と森をちゃんと見分けられるかだと思います。この映画を批判しつつも、子ども達にジャズの素晴らしさを教え、森全体を見る手助けをしてあげてください。
※民朗さんやシオンソルトさんのように「こんなジャズ映画も有るし、ジャズを好きな人もいるんだよ」という作品を教えてあげるなど、とても良いです!
子ど達を怯えさせて悪影響を与える。これが作品を葬る大義名分になるなら。今問題になっている「チャッピー」の日本独自編集も「子ども達がをロボットを恐い存在と捉え得てしまい、将来の技術者が育たなくなる」という意味で受け入れねばなりません。
長くなりましたが今一度、決して「こんな映画は撮らせない!」だけは言わないで欲しいのです。その願いはいつか跳ね返って貴方の大事な物を殺してしまいます。
北関東在住のため上映されていないらしく観ていません。
予告編や内容、ネタばれなしレビューを見る限りではかなりフラストレーションが溜まりそうですね。
物凄く体力を使う、重い映画なのでしょうか?
ただ、高評価のレビューが非常に多く、オスカーでも大健闘だったので、観たいような観たくないような複雑な気分です。
ジャズに限らず、プロを目指す以上、これぐらい狂って人間やめないとやっていけないのでしょうね。
ほぼ同日公開のコナンやクレしんがGW映画の覇者になると思いますが、あえて家族連れで観たら、どうゆう反応をするか見てみたい気がします。
夢って"踏みにじられる物"だとひねくれた自分では思っていますので。
1点気になったのですが、
ラストのフレッチャーの行動のきっかけになったのは、(勝手に行きすぎた指導を密告したと思っている)のではなく、実際にニーマンの密告がフレッチャー解任の決定打になったではなかったでしょうか?渋々口を開くニーマンを画面が捉えていたと思います。
今後もレビューを楽しみにしています!
> それから映画では無いですが、『坂道のアポロン』というアニメもモダンジャズを題材とした良い作品です。特にセッションに初めて参加する時の初心者(主人公)心境やセッションの楽しさを上手く描いています。
> https://www.youtube.com/watch?v=pFHNPkHCW5Y 「坂道アポロン 初めてのジャズセッション」
どっちも追加させてください!
坂道のアポロンは2巻まで原作を読んでいましたね。アニメも観たくなりました。
> それから、『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ/アート・ブレイキー』というジャズ史に燦然と輝く大名盤があります。
> 50年代後期としては最高レベルのクインテットでありながら、そのライブ演奏の内容はとてもホットで、途中から客として居合わせていた歌手が一緒に盛り上がって歌い出す始末。ちょっと演奏時間が15分と長いですが、こういう楽しいジャズもありますという一例として良ければ一度聴いてみて下さい。
> https://www.youtube.com/watch?v=-RZDaina8Qk 「Politely - Art blakey & The Jazz Messengers」
これは家でじっくり聞くべきですね。こういうのが『セッション』でも聞きたかった(目指しているものは違うけど)
『けいおん』と『デトロイト・メタル・シティ』にそんな批判があったとは……
> 長くなりましたが今一度、決して「こんな映画は撮らせない!」だけは言わないで欲しいのです。その願いはいつか跳ね返って貴方の大事な物を殺してしまいます。
表現の自由だけは守ってほしいですね。
最近はそんなことはないかなーっと思っていたら、『チャッピー』がカットされて上映されてしまうしなあ……
> 予告編や内容、ネタばれなしレビューを見る限りではかなりフラストレーションが溜まりそうですね。
> 物凄く体力を使う、重い映画なのでしょうか?
上映時間が短いおかげが、意外と疲れませんでしたね。
これで2時間声だったらヘトヘトかと……
> ラストのフレッチャーの行動のきっかけになったのは、(勝手に行きすぎた指導を密告したと思っている)のではなく、実際にニーマンの密告がフレッチャー解任の決定打になったではなかったでしょうか?渋々口を開くニーマンを画面が捉えていたと思います。
ああ!そうですね。そういう表現だったと思います。修正します。
大変読みやすいレビューで、劇場に足を運ぶかの参考にもさせて頂いてます!
>また、後にニーマンが遅刻した理由が、バスの故障なのか、乗り間違えなのかがよくわかりませんでした。
こちらですが、イヤホンでイメトレに没頭していたニーマンが車の振動に驚いてイヤホンを外すシーン→パンクしてボコボコになったバスのタイヤが映っていた ため、バス側のトラブルだったかと思います。
今後もレビューを楽しみにしてますーー!!
> 今後もレビューを楽しみにしてますーー!!
ありがとうございます。追記させてください。
ずっとドラムが鳴り響いてましたね…。すごかったです。フレッチャーが手をパッとやってすぐに演奏を止める姿はとてもかっこよかったです。テンポの違いが何もわからない自分はただ「すげー」でした。笑
会場へのバスはパンク、フレッチャーが解任された理由はニーマンの告げ口が決定打で間違いないと思います。
ニーマンの父親が学校サイドに連絡し、3人で話し合ってシーンの最後にニーマンが「何から話せば良いのか…」と全てを打ち明けるような感じで終わっていたので。
音程が違って退場を命じられたオデブちゃん。「自覚がないのが問題だ。」と言っていたのは、音程が合ってるかどうかを聞いても「わからない。」と答えていたオデブちゃんのことも指しているのかなと思いました。あそこで確信を持って「僕は合ってます!」と言っていたら退場にならなかったでしょう…。
これからも多くの映画のレビューを期待してます!!
びっくりする程賛否が分かれる映画ですが、私はこの作品を近年稀に見る優秀作品だと思います。
ニーマンは劣等感を隠して傲慢な態度をとる嫌な奴ですが、それも彼の19歳という年齢を考えればすごく適切な設定であり、表現だと感じました。
また、ジャズをやられている方からすればブラックスワンのように、見て嫌なイメージがつくのがちょっと、、など酷評される方が多かったですが、一般人のジャズは嗜む程度の私からすれば、ただこの作品はジャズというものに的を絞って描いているだけであって、例えばこれが野球であったりテニスであったとしてもニーマンのような自己中心的に自らの世界に没頭し名声を渇望する主人公や、フレッチャーのような二面性鬼コーチは存在すると思えました。
ジャズどうこうだけでなく、何かに取り憑かれ取り組む姿勢、狂気性、そしてそこから生まれる何か。。。
ので、私はやはりこの作品は人間というものを映し出す素晴らしい作品だと感じました。
長文失礼しました。
昭和のスポ根マンガなら見なれた光景ですけど、スパルタに体育会系も文化系もなしと思い知らされました。
でも、たしかに不愉快になる人の気持ちも解ります。『イン・ザ・ヒーロー』がこんな話だったら自分も嫌です。「こんな映画は撮るな!」は言いませんけども・・・。
ですが、もう一つ思いだしたのは『地獄でなぜ悪い』です。嫌々でなく好きで血まみれになって狂う程に打ち込める事がある彼らを羨ましくも思ったり・・・。
>主人公ふたりがイヤなやつすぎること。
ここは良い設定に感じました。純粋に夢みる青年なニーマンが鬼軍曹フレッチャーにシゴかれまくって「ステージの上では泣かないわ!でも、涙が出ちゃう・・・男の子だもん!」なお話だったら、ここまで話題にならなかったかと・・・。
個人的にショーンの死を美談に偽装したフレッチャーも相当ですけど、関係者が彼よりも多く登場するせいか、ニーマンの方がクズ度高く感じました。ニコルへの別れ話も絶句でしたが、「オマエそれ言ったら戦争だろ!」な事を言われて殴らなかった従兄弟達が聖人に見えます・・・。
>(フレッチャーが幼い女の子に、「君は将来ピアノに決定!」みたいな感じで言うのはマジで怖い)
あの子の父親が自分よりも大物なので、政治的なリップサービスでしょうか。それとも本気で将来の生徒を物色していたのか・・・。
>Good Job
他人に「上出来」を決められてしまうと認められた安堵から、それ以上を目指さなくなってしまう。これはゾクっと来ました。自分の限界を他人に委ねるという事ですからね。