ヤクザの世界で 映画『Zアイランド』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:ゾンビ映画愛、伝わる
あらすじ
ヤクザとゾンビが戦います。
『漫才ギャング』『サンブンノイチ』の品川ヒロシ監督最新作です。
(予告編や公式サイトではビミョーに濁していますが)本作のジャンルはゾンビ映画です。しかもそのゾンビに対抗するのはヤクザというなんとも破天荒な内容となっています。
品川ヒロシ監督作品の優れているところは、とにかく観客を楽しませようとする気概にあふれていること。
ゾンビ映画とヤクザ映画をミックスさせるというザ・B級な発想と、これでもかあれでもかと既存の映画作品の要素を入れまくっている作風はとっても好感が持てます(←上から目線)。
本作でデジャヴを感じたのは、スローモーションを多用したアクションシーンです。
これはガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』か、ザック・スナイダー監督の『300』の影響なのでしょうね。
何よりも感心したのは(←上から目線)、ゾンビ映画の「あるある」を踏まえていながらも、展開が予想できないような「外し」を用意していること。
この手のゾンビ映画やモンスターパニック映画では「誰が生き残るか」をあれこれと考えるするのは世の常だと思うのですが、自分は予想を思い切り外してしましました。
「死亡フラグ」が必ず当たるとは限らないという点では、秀作サメ映画『ディープ・ブルー』を思い出しました。
かわいい女子高生が空手でクズ男たちをボコボコにするというのも素敵。
山本舞香さんは、空手の黒帯のためマジで強かったりします。
JKにボコられたいドMな男はさっさと観に行きましょう。
全国的に公開されている作品ながら、グロ描写に手を抜いていません。
血はぶっしゃぶっしゃ飛びますし、首はスッポンスッポン抜けます。
PG12指定ギリギリ(アウト)を突っ走っているので、「ゾンビ映画にグロは不可欠!」と思っている人は大満足できるのではないでしょうか。
しかも、ゾンビ映画にある「愛おしい人がゾンビになってしまう」という哀しさ、恐ろしさもキッチリ描いています。
それでいて、ゾンビ映画オタクが「どっちだ?ゾンビはゆっくりなほうか、速いほうか?どっちだ??」と確かめるという(ゾンビ映画ファンだけが笑える)コメディシーンもある・・・・このバランスはなかなかによかったです。
※知らない方に説明すると、ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビは走らなくて、『ゾンビ』のリメイク作である『ドーン・オブ・ザ・デッド』のゾンビは走ります。ロメロ監督が「ゾンビが走るのは解せないよ」と語ったのはあまりに有名です。
登場キャラがみんな個性的で、どうでもいいキャラがひとりもいなかったというのもいいですね。
基本的に登場人物の半分くらいがクズなのですが、そのクズっぷりが一周回って魅力的。個人的にはジャニーズなのに腐れヤブ医者を演じている風間俊介の演技が大好きでした。
本作の欠点は、コント調の掛け合いが必要以上に多く、作品のテンポを削いでしまっていること(いつものことです)。
その掛け合いの大半は物語と関係のないまったくもってムダなもの。これは品川監督が大好きなクエンティン・タランティーノの影響なのでしょうが、そこはマネしなくてもいいような……(タランティーノ会話はコントじゃないし)
何より、この掛け合いのほとんどがちょっとすべり気味なんですよね。
旅館で電話をかけるけどゾンビが現れるなんて信じてくれないというシーンはおもしろかったんですが、哀川翔と鶴見辰吾がバカバカ言っているシーンは白目になりかけました(つまらなくて)。
音楽の使いかたも、ちょっと大仰すぎです。
感動的なシーンでは泣かせるような音楽をかける、メインテーマが何度もくり返されるというもので、工夫はみられません。音楽自体はとてもいいのですが・・・
※挿入歌と主題歌も格好いいです。
本作の舞台は「島」のはずなのですが、その外界と断絶された孤島ということがちょっと伝わりにくいのも欠点かも。
これは島を俯瞰する画がないこと、島に住んでいない登場人物のドラマを並行して描いたことが原因でしょう。もう少し限られた世界での「閉塞感」を出してほしかったです。
展開もややごり押しで、細かいところを見ていったからかなりアラが出てきそうです。
自分は、この手のゾンビ映画ではあんまりそういうことを気にしないのですが、足の神経がやられているはずの哀川翔がふつうに歩きまくっているのはさすがに雑すぎました。
一概に悪いとは言えませんが、女性が性の対象としてみられる(性的な暴力までも加えられる)シーンが多くあります。
悪役のクズっぷりを示すためには必要なものなのでしょうか、不愉快に感じる人も少なくないでしょう。
それでも、自分はこの映画を支持したいと思います。
品川監督は映画愛に溢れているはずなのに、映画ファンから嫌われているのが気の毒に感じてしまうんです(嫌っている人の例:ライムスター宇多丸さん)
まあ、『サンブンノイチ』で「映画を撮ったことがないやつ(映画ファン)が文句を言うな!」ということを登場人物に主張させてしまっているあたり、自業自得な気もしますが・・・
自分は芸人としての品川祐はあのキャラのおかげで大嫌いですが、映画監督としての品川ヒロシは嫌いになれません。
逆に、松本人志は芸人としては大好きだけど、映画監督としては死ぬほど嫌いです(例:『R100』)
作中にゾンビ映画オタクが出てきたり、ゾンビの知識を知ったうえでの行動が描かれてきたり、ゾンビ映画のあるあるも満載という、ゾンビ映画ファンにはたまらない内容なのになあ……。
ちなみに本作は興行収入が初登場14位という大爆死を遂げており、一般のお客さんからも無視されつつあります。
品川監督は撮りたい映画を撮ることができて、ある程度は満足していると思うのですけどね。
これから本作を観る人は、「ヤクザがゾンビと闘わなければ理由」「ゾンビが暗示していること」「チャラい作風が生きている展開」に注目してほしいです。
「ヤクザがゾンビと戦う」設定自体はありえねーものですが、その過程と人物をしっかり描いているため、説得力があります。
物語では「ヤクザの哀しさ」が十二分に表れており、そのテーマはとても納得がいくものでした。
そして、チャラチャラしてウザい登場人物が多いことを逆手に取った熱い展開もあるのです。
これにはかなり感動できました。
伏線は(わかりやすすぎるくらいに)張られまくっていますし、ゾンビ映画好きなら大いに楽しめるのではないでしょうか。
ゾンビ映画に飢えている方は、ぜひ劇場へ。
※「第1話」も配信中です(残虐な描写があるので注意)。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜足が速いゾンビの見分けかた?〜
ゾンビ映画オタクのヤブ医者(風間俊介)は「ウイルス系のゾンビは足が速い、薬品系のゾンビは足が遅い気がするんだよね(←逆だったらごめんなさい)。あの走ってきたヤクザのゾンビ(宮川大輔)は薬品系とウイルス系のハイブリッドだったんじゃないかな?」と言っていました。本当かなそれ。
・ウイルス/足が速い
『バイオハザード』『ワールドウォーZ』『ドーン・オブ・ザ・デッド』
・薬品/足が遅い
『死霊のしたたり』(自分は観ていないけど、たぶん遅いよね)
でも『バタリアン』は薬品系だけど足が速いゾンビでしたね。当たっているような、当たっていないような・・・
そして、この知識がサバイバルには何の役にたっていないというのも素敵。ただ品川ヒロシ監督が映画の知識をひけらかしたいだけです(笑)。
〜生きていてほしかった・・・〜
この映画で驚いたのは、空手の家出女子高生・日向がゾンビ化してしまうということ。
両親(鶴見辰吾と鈴木砂羽)が彼女の思い出の地にたどり着き、「彼女が振り向くまで」に「期待」を持たせている描写は秀逸です。
「まさか、あれほど強い彼女はゾンビになんてならないだろう」という観客の予想をうまく裏切っています。
両親は娘とともに死を選ぶしかなかったけど、それでも最期に父親は「いい子いい子」をしてもらうという願いを叶える・・・なんとも哀しいシーンです。
〜チャラいけど、チャラくない〜
そのほかにも、登場人物は「まさかの行動」をします。
警官(窪塚洋介)は「俺『グランド・オート・セフト』みたいな世界が理想なんだよね」とアウトすぎることを言ったりと、チャラくていいかげんなキャラでした。
しかし、彼は「格好をつけて」イケイケ女子高生(水野絵梨奈)を助け、「ちょっと死んでくるわ」と「軽さ」を装いながら死んでいきます。
これは「俺が死ぬなんてたいしたことねーから、気にすんな」という、彼なりの心意気に思えます。
ヤブ医者(風間俊介)は「ヤりたいだけ」だけのボンクラ男に思えましたが、ふたりの元カノ(篠原ゆき子とシシド・カフカ)が襲いかかってきたときは、「元カノは撃てねーや」と言って自ら死を選びます。
これは、彼がドSナースに言っていた「部屋に誘ってヤりたいのは当たっているけど、それだけではありません~」というセリフが生きている展開です。
彼は本当にそれ(性欲)だけでなくて、彼女たちを愛していたんでしょうね(この後の「両手に花」がまた泣ける)。
漁師の男(般若)は「あんだけドッキリ?ドッキリ?」と疑ってきたけど、いざ本当だとわかると真面目になり、身を呈して仲間を救います。
彼が漁師仲間からウザがられていた「うるさすぎる音楽システム」は、ゾンビたちを引きつけて海に落とすという起死回生の手段になりました。
空手娘がヤクザの親父の迎えには行かずに家出をしたのは、決して愛情がなかったからではありません。
ただ「気恥ずかしかったから」ことが理由でしょう。
ほかの登場人物のチャラさも、「真面目すぎると格好つけていると思われるから」ということが理由ですよね。
こういう「ウザさ」「気恥ずかしいがゆえの行動」が、じつは誰かを想う気持ちとして昇華されているのは、なんとも泣けるではありませんか。
一方、クズヤクザの下っ端(野性爆弾の川島)は、女ゾンビにまで乱暴をしようとしていました。
このときに彼は、助けていた島の住人のことなんてまったく気にしていない(愛情や誰かを想う気持ちなんてこれっぽちもないのですよね。こういう対比も見事です。
〜ヤクザの気持ち〜
クライマックスで好きだったのは、主人公(哀川翔)のたまっていたうっぷんが「関西人はノリが良すぎて嫌いなんだよ!」というセリフに表れていたこと。
主人公は序盤でヤクザを破門にされ、若造(次長課長の河本)にこき使われたうえにつまらない冗談を言われていました。
彼はそういう境遇やアパート暮らしを「こんなもんだよ」と受け入れていましたが、本音はこっちなんでしょうね。
クズヤクザ(木村祐一)は作中で5、6回くらい「お前はもう死んでるっていうやつや」と言っててイライラしましたが、断末魔まで「我が生涯に一片の悔いなし」と『北斗の拳』をリスペクトしすぎでやっぱりウザかったですね(笑)。
でも主人公がクズヤクザをぶっ倒し「お前はもう死んでいるだっけか?」と、嫌いなはずの「ノリのいいセリフ」を言い返してくれるのは痛快でした。
〜ヤクザの悲しさ〜
最後に主人公がつぶやいたのは、「また俺たちだけ生き残っちまったな」という言葉でした。
※このセリフは『七人の侍』を思わせるというコメントをいただきました。
彼は冒頭でも仲間のほとんどを(ヤクザに)殺されていました。
今回、ゾンビの騒動に巻き込まれたことは、ヤクザの抗争に巻き込まれたことと変わりはないのでしょう。
ヤクザのいるところは、愛する者を失い、自分たちだけが生き残って「しまう」という哀しい世界です。
・・・ところで、海に落としたはずのゾンビたちは結局倒せていないよね(むっちゃ泳いでいた)
ラストには地下道にゾンビたちが上陸していたし、これからはマジで世界中ゾンビが溢れかえるんでしょうね。
ゲーム『グランド・セフト・オート』、ゾンビ映画、ヤクザ映画に憧れたとしても・・・やっぱり、そんな世界にはいたくありません。
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土葬された死体が生き返るなんて死臭・腐臭がものすごくいだろうなあというのが一番の理由です。
まあ今回のゾンビ化の理由は、映画の中のセリフの薀蓄で、理解できたのですが、まあ、強制納得。
やくざ世界をやらせたら、関西芸人は、なんだか地でやっているようで面白いですね。
品川監督の映画は初めて見ましたが、観客を楽しませる点では、好意を持ちました。
登場人物をかなりゾンビ化させたのが、惜しいですね。
あのゾンビは、海峡を渡って、本土に上陸しますから。
それから「俺たちだけが生き残った」のセリフは、七人の侍のセリフを思い出させますね。
> それから「俺たちだけが生き残った」のセリフは、七人の侍のセリフを思い出させますね。
本当だ! 追記させてください。