老人脅迫ロードムービー 映画『0.5ミリ』ネタバレなし感想+豪華じじい紹介
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個人的お気に入り度:8/10
一言感想:ぜんぜんハートフルじゃなかった
あらすじ
介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は、ある日派遣先で「おじいちゃんといっしょに寝てほしい」と依頼される。
サワは添い寝するだけとの条件で引き受けるが、その日のうちに大事件に巻き込まれてしまい、職場も、住まい、もわずかな貯金でさえも失ってしまう。
いやね、この映画は安藤桃子監督自身の介護経験をもとにした作品ということで、主人公が介護を通じて成長したり人の温かみを知ったりするハートフルな作品なんだろうな~と勝手に想像していたらこんちくしょう、いい意味で死ぬほど裏切られました。
端的に内容を語りますと、監督の実の妹である安藤サクラが老人たちをつぎつぎと脅迫して回るという作品と考えて問題ございません。
なぜ脅迫するかといえば、家も貯金もないプータローで、頼れる家族もいないから。
なぜ脅迫ができるかと言えば、このじじいたちはふつうに犯罪行為をしまくっているから(なんて映画だ)。
住む場所を手にいれるため(それだけではない?)のために、つぎつぎと老人の弱みを握っていく様はかなり痛快(?)なのでした。
もちろん介護に関する現状を描く真面目な要素だってあるのですが、それはあくまでも「題材」というだけで、メインに描かれるのはファンタジー気味な話(寓話)です。
いい意味で「ありえねー」展開を楽しめました。
さて、本作で特徴的なのはもうひとつ。上映時間が3時間19分あることです。タイタニック超えてんじゃねえか。
でもこれが不思議と飽きない。なぜかと言えば「つぎに安藤サクラは老人にどんなことをするんだろう?」と気になってしょうがないから。
演出は淡々としているように見えて、役者たちのほんのちょっとの「感情の揺らぎ」も見えます。
伏線は巧みに使われているので、長尺映画ならではのダイナミズムを期待をしても決して裏切られないでしょう。
さすがに終盤になると「上映時間長え・・・」という気持ちにならずを得ないところがありましたが、その気分も含めて楽しむべきです。
出演しているおじいちゃんたちがめちゃくちゃ豪華な配役だったり、音楽担当がゲーム「beatmaniaIIDX」で有名なTaQ(確かエンドロールには久保田修もクレジットされていた)であったことにも驚きました。
クラシック音楽と、落ち着いたアンビエントな楽曲が作品にとてもマッチしています。
そんなわけで、その上映時間のおかげで鑑賞のハードルがものすごく高いのですが、決して観て損はないはず。
ぼーっと「流し観」しても楽しめますし、じっくり観ても役者の演技の妙を楽しめるはず。
優れた日本映画を観たい人すべてにおすすめします。
↓以下は脅迫される豪華じじいを紹介。未見でも問題ないレベルだとは思いますが、予備知識なく観たい方はご注意を
その1:カラオケおじいさん(井上竜夫)
脅迫難易度:☆
脅迫方法:カラオケ店に泊まろうとしていたので、ついでに自分もボックスに入る。
主人公は、泊まる場所がなくてカラオケ店にいるおじいちゃんに「やあ。待った~」となれなれしく話しかけ、いっしょにカラオケへとしゃれ込むのでした。
これ以降主人公が脅迫に躊躇しないのは、味をしめちゃったからでしょう。
あとカラオケ店員が東出昌大さんであることにまったく気づかなかった。チャラい店員役が似合いすぎて。
その2:自転車ぷしゅーおじいさん(坂田利夫)
脅迫難易度:☆☆
脅迫方法:むかつくおばちゃんの自転車をパンクさせていたのを現行犯脅迫
このおじいちゃんは自転車をパンクさせるばかりか、ナチュラルにパクりまくるクズじじいなので主人公にもっとやったれと思えますね。
でもこのおじいちゃん、詐欺を働こうとする友だち(じゃないけど)をまったく疑わなかったり、純粋なところがあるので憎めないんだよねえ・・・
「あほの坂田」として有名な坂田利夫さんですが、この映画で第10回おおさかシネマフェスティバルで助演男優賞を受賞しました。
その3:女子高生大好きおじいさん(津川雅彦)
脅迫難易度:☆☆☆
脅迫方法:女子高生の写真集を万引きしようとしていたので現行犯脅迫
このおじいちゃんの言い訳のしかたがもうしょうもなくて、情けないを通り越して愛おしくなります。
「セーラー服、私が着てあげようか?」と聞く安藤サクラにちょっとドキッとしました。この後にセーラー服を着てくれなかったのは残念だけどね!期待していたのに!(←作品のいちばんの不満)
一応このエピソードが作品のメイン的位置付けで、ここでタイトルの「0.5ミリ」の意味もわかります。
その4:汚い海の家のおじいさん(柄本明)
脅迫難易度:☆☆☆☆☆
脅迫方法:???
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、とりあえず柄本明さんが一世一代の名クズ演技を披露しています。
もうね、↑の画像のようにお弁当作ってくれたのに礼のひとつも言わないことにイラっとしたけど、そんなの序の口だったね。
あとね、この映画の安藤サクラがものごっそいかわいいの。
そりゃあご尊顔を一瞥すればブ(大変失礼なので自主規制)ですが、仕草とか、ときおり見せる屈託のない笑顔は本当にかわいい。たとえじじいを脅迫する役でもかわいいんだから恐れ入ります。
前後に『愛と誠』や『百円の恋』を観ておくと、よりそのギャップに驚けることでしょう。
そしてこの映画、ラストにかなりのどんでん返しが待ち受けています。
自分はすっかり騙されてしまいました(気付ける人はまずいないでしょう)。<この画像も伏線?
本作のテーマとなっているのは、「人と人との距離感」や「この世に生きる」ということだったり。
「0.5ミリ」という一見意味不明なタイトルも奥深いものに思えてくるーそんな秀作でした。
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