愛の大きさ 映画『ラブ&ピース』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
※(7/1ネタバレ部分を追記しました)
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:子どもに観せたい(本気)園子温映画
あらすじ
ロックミュージシャンになる夢を諦めたサラリーマンの鈴木良一(長谷川博己)は、職場の同僚・寺島裕子(麻生久美子)に恋をしているが、なかなか話しかけることできないでいた。
ある日、彼はミドリガメの「ピカドン」と運命的な出会いを果たすが、同僚に嘲笑されたたため。勢い余ってピカドンをトイレに流してしまう。
ピカドンは下水道を通って、謎の老人(西田敏行)のもとにたどり着くのだが…。
ゲロゲログロンチョ(←失礼な表現)な映画を得意とする、園子温監督最新作です。
しかし、本作『ラブ&ピース』では血が1滴も出ないですし人も死にません。
しかも、エロがないどころか、セックスもキスシーンすらありません(ラブストーリーなのに!)
(これまでにも園監督は『気球クラブ、その後』でまっとうな青春映画を、『ちゃんと伝える』で父の死を目前に控えた青年のヒューマンドラマを手がけているので、決してエロなし&グロなしの作風が珍しいわけではありません)
だけど、さすがは園子温監督。グロがなかろーが、エロがなかろーが、すぐに「あ、これ園監督の映画だわ」と思える作品に仕上がっていました。
具体的には以下のような要素です。
(1)登場人物がギャーギャーうるさい
『ヒミズ』や『地獄でなぜ悪い』で登場人物がわめき散らすことには賛否両論を呼びましたが、本作も登場人物が「ホァァァァー!」「ヒエエエエー!」とキチッている叫びかたをするので非常にうるさいです。
さすが園監督、エロなしグロなしであろうといえども、確実に観客をふるいにかけています。
(2)リアリティなどシカト
本作に「本当にありそうな」要素などは期待してはいけません。むしろありえねー展開しかありません。
同時期公開の『極道大戦争』並の超展開(←公式でもアピールしている単語)が続くので、ふつうの映画だと思っていると面食らうこと必至です。
そういえば、『予告犯』のブラック企業の描きかたが極端すぎて嫌われていましたが、こっちの職場の人間関係はもっと極端でありえねーです。人によってはドン引き必至でしょう。
ほかにも、おなじみのドンドコドコドコ鳴るドラムのBGM、初めに現れる「SONO SION'S FILM」の文字もしっかり存在。
そんな極端な作風でも、なんとなく受け入れられてしまうのが、園子温監督。
監督のファンを自称するのであれば、すんなり映画の世界に入っていけるでしょう(たぶん)。
すさまじいのは本作のジャンル、と言うかごった煮具合。
かいつまんで言えば、ラブストーリー×『トイストーリー』×怪獣映画って感じです。
なんでトイストーリーやねん、なんで怪獣映画やねんと思った方は、ぜひ観に行きましょう。マジですから。
本作を子どもに観せたいと思う理由は、トイストーリーのように「大切なもの」をもっと大切にしたいと思える物語になっているからです。
しかも、園監督自身も「子どもに観てもらいたい」という理由から、非・人間のかわいいキャラを映画に登場させているのです。
若き特撮監督・田口清隆さんが本作に参加しているので、怪獣映画を期待している方にとっても、きっと満足できるでしょう。
あとね、本作の予告は「泣ける」ことが強調されていると思うのですが、個人的には終盤にかけてポカーンな感じになる作品だと思います。


いや、映画の感じかたは人それぞれですし、最後に泣けるのもわかるのですが、それよりも呆気にとられる比重が高いというか……。
ラストの展開は、「なぜそうなるのか」が、すぐにはピンとこないと思うのです。
しかし、ラストの展開に「愛」という言葉を重ねれば、きっとそのメッセージは伝わるはず。
自分にとって、この『ラブ&ピース』は観ている間よりも、後でラストシーンの意味を考えてこそ感動できる作品でした。
![]() | powered by yasuikamo |
※園監督の詩&挿絵が入った小説(?)
本作の難点は、園監督のシーンひとつひとつの思い入れがあまりにも強いためか、少々テンポが悪く感じられること。
ふたつの物語を軸にして展開していくのもあいまって、もどかしさを覚える人も少なくないでしょう。
『冷たい熱帯魚』や『地獄でなぜ悪い』のスピード感やカタルシスを期待すると、本作は肩すかしなのかもしれません。
個人的にちょっと残念だったのは、麻生久美子演じるヒロインの魅力が伝わりにくいこと。
ラストを考えればそれも意味のあることなのかもしれませんが、やはり映画としてはここに弱さを感じます。
だけど、自分はこの映画が大好きです。
園監督は、単純に美男美女が恋に落ちるような恋愛映画でなく、「愛」というものの本質を捉えて映画を作っているような気がします。
(それがいちばん現れていたのが、ヒロインに尽くしまくる主人公を描いた『愛のむきだし』でした)
描かれているのは、愛についての寓話です。
愛とはなんぞや、どうやって手に入れるものなのか、あるいはどうして人は愛をなくしてしまうのかー
そういうことを、ファンタジーがかったストーリーで、叙述的に教えてくれるのです。
これはオススメです。
長谷川博己の怪演に期待している人も、ダメ人間応援ムービーを観たい人にとっても、きっと満足できる作品になるはずです。
本作の最大の欠点は、子どもにオススメしたいのに、園監督らしい極端さが観る人を選びまくることですね。
だけど、園監督はハマる人にとっては最高の映画人として崇められるお方のひとり。
園監督のファンだというお父さんお母さんがたは、本作をお子さんに観せて
PS.
映画を観る前に、ひとつ知っておくといいのが須彌山(しゅみせん)説です。
これは仏教の宇宙観で、古代インドの人々は、巨大な3匹の象が地球を支え、それを巨大なカメが支え、世界のすべてを支えていると考えていました。
本作のキービジュアルにある(本編でも言及されている)のは、まさにこれなのです。

PPS.
タイトルの「ピース」とはふつうに考えればpeace(平和)のことですが、じつはpiece(かけら、断片)も意味しているのではないかと思いました。
主人公に欠けていた「piece」とは何だったのか? それを考えてみるのも、また一興です。
↓以下は全力ネタバレレッツゴーなので鑑賞後に読みましょう。
〜ガメラ化〜
いやあ、ピカドン(カメ)が巨大化するというラストは最高でしたね。
しかもピカドンがものごっつかわいい! 声がまさかの大谷育江さん(ピカチュウの人)!
ほかにも犬山イヌコ(ニャースの人)のやさぐれたネコ、星野源のロボット、しょこたんのお人形もかわいすぎる。
もちろんピカドンの元ネタは『ガメラ』なのでしょうが、ひょっとするとウルトラQの「育てよカメ」のオマージュとも言えそうです。
〜まさかのあの曲〜
良一がいきなり「全力歯ぎしりレッツゴー!」と歌い出したのは笑いました。
『地獄でなぜ悪い』で耳に残りまくったあのフレーズが出てくるとは……
ていうかこれはバンドメンバーに怒られるだろ!(方向性が違う歌を作ったときは怒られていたのに)
〜大きすぎる恋心〜
この映画で綴られるのは、主人公・良一の恋心がはちきれるまでの物語です。
また、カメのピカドンが意味しているのは、恋心そのものです。
良一は裕子に恋をしているけれど、奥手なので告白できません。
いや、それどころかミュージシャンとして成功することで、その恋心をごまかしているとも取れます。
良一はミュージシャンとして豪華な部屋も手に入れているけど、自分では曲を作ることはできません。
そこに大きくなったピカドンがやってきて、崩れた本のタイトルがつながるという奇跡(笑)が起きて新しい歌詞を作ってくれるのですが……さらに裕子もやってきます。
良一はピカドンを隠そうとして、裕子は「なんで隠すの、カメかわいいのに」と言うのですが……けっきょく追い出されてしまいます。
これ、良一がだだ漏れな恋心を必死で隠そうとしている(裕子はかわいい恋心に気づいている)としか思えません。
(もしくは、中学生が恋人のためにラブソングを作ったという黒歴史っぽいエピソードです)
さらにピカドンはガメラ化して、かつて良一がミニチュアで作っていた「夢の道」を進みます。
ピカドンはゴールの武道館で「僕は寺島裕子ちゃんのことが好き!」と大声で告白します。
良一が恋心を口にするというのは、ミュージシャンとして武道館で歌うことよりも巨大な夢だったのです。
ピカドンがそこまで大きくなったのはそれが理由。
良一にとって裕子に告白するというのは、大きすぎる夢だったんです。
〜伝えられなかった愛〜
謎の老人(西田敏行)は、人間に捨てられていた人形やおもちゃや犬たちを拾い、そしてどこかへ連れて行こうとしていました。
老人の正体はサンタクロース。そうであるならば、彼のもとへたどり着いたみんなは、またプレゼントとして、人間たちから愛されるのでしょうか……
※以下の意見をいただきました。
キリスト教のサンタを使って仏教の輪廻転生を表現しているようですばらしい設定です!これだけでも小さな子達に観て欲しいし、このサンタさんのスピンオフ作品を撮って欲しいです!
おもちゃたちは、人間からの愛をもらえず、捨てられてしまいました。
もしかすると、おもちゃを捨てた人間たちは、良一と同じように自分の心をうまく伝えられなかっただけなのかもしれません。
(もしくは……良一は、成功したきっかけになったバンドメンバーを切り捨てるというヒドいこともしてました。人間たちがおもちゃたちを捨てたのも、同じようなことだったのかもしれません。)
おもちゃたちと良一の物語を振り返れば……素直に自分の愛を誰かに伝えたくなるかもしれません。
〜本当の気持ちで〜
最後にアパートに戻った良一は、ふつうのサイズに戻っているピカドンを見てこう言います。
「カメ、お前か」
なぜ呼び名が「ピカドン」ではないのか?
おそらく、良一はカメに自分の恋心を預けてごまかしていることに気づいたのでしょう。
ピカドンという名前をつけること=反戦のメッセージ=恋心を隠すこと、に思えるのです。
良一は、カメにピカドンと名付けて、無意識に裕子に告白する夢を託した。
だけど、そのことを職場で嘲笑されて、夢(ピカドンという名前のカメ)を自らの手で離して(トイレに流して)しまう。
それでも、告白するという夢は、ミュージシャンになるという夢よりもはるかに大きく、ついにはちきれてしまった―
そうであれば……良一も自身の恋心の大きさに気づくでしょう。
最後に裕子は、良一の部屋のすぐそばまで駆けつけます。
良一はこの後……自分の口から、しっかりと裕子に告白するのではないでしょうか。
その部屋は、ミュージシャンになって手に入れたレプリカの部屋とは違い、「本物」の場所です。
今度こそ、良一は逃げずに自分の想いを告げることができるはず。
その愛(LOVE)が、良一に欠けていたPIECEでありPEACEなのだと思います。
おすすめ↓
#217 ラブ&ピース/流されてゆくお前を忘れない! | Tunagu.
主題歌(歌詞はこちら)↓
(C)「ラブ&ピース」製作委員会
全生庵
言霊の会
自分には子どもがいませんが、久々にダチの子達を映画館に誘いたくなりました!
>一言感想:子どもに観せたい(本気)園子温映画
ヒナカタさん。何を本気で血迷ってるんですか・・・と観賞前は思いましたが、今は力強く同意です!!
小学校の時に観たNHK教育チャンネルの道徳ドラマに再編集して流して欲しいくらいです!
>(1)登場人物がギャーギャーうるさい
子どもはけっこうTVの中の奇人変人は面白がるから大丈夫かと・・・。
>ブラック企業の描きかたが極端すぎて
個人的にここも子どもに観て欲しいかなあ・・・と。「人は大人になってもこんな幼稚な事やってるのか・・・」と絶望感を与えるかもしれませんが、いじめッ子の醜さをこれでもかと見せてくれるので「ああはなりたくないな・・・」と前向きな教訓として捉えてくれないかなあ・・・と。
>若き特撮監督・田口清隆さんが本作に参加
ピカドン→カメちゃん→ラブちゃんは、おメメがクリッとまんまるで子どもにも受ける可愛い造形に見えます!
>謎の老人
キリスト教のサンタを使って仏教の輪廻転生を表現しているようですばらしい設定です!これだけでも小さな子達に観て欲しいし、このサンタさんのスピンオフ作品を撮って欲しいです!
けっこう入ってましたが、レイトショーだったのでカップルばかりで子どもはいませんでした。
明日から本格的に夏休み映画が始まってしまうので、この名作が埋もれてしまうのが残念でなりません。
季節も冬に公開して欲しいかったかな・・・。
> >謎の老人
> キリスト教のサンタを使って仏教の輪廻転生を表現しているようですばらしい設定です!これだけでも小さな子達に観て欲しいし、このサンタさんのスピンオフ作品を撮って欲しいです!
なるほど!こちらを追記させてください。
文章読みずらくてすみません。とにかく園子温さいこー