野生的すぎる映画『人生スイッチ』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:腐ってやがる(人間性が)
あらすじ
第1話「おかえし」 第2話「おもてなし」 第3話「エンスト」 第4話「ヒーローになるために」 第5話「愚息」 第6話「HAPPY WEDDING」
そのすべてが怒って人生が破滅する話。
いやーこれは素敵なオムニバス・ストーリーでした!
何が素敵って6話すべての主人公がクズということですね。
個人的にキライじゃない『イントゥ・ザ・ウッズ』もオール・アラウンド・クズっぷりがエキサイティングでしたが、本作はそれが6連発です。最高です(笑顔)。
本作のジャンルは一応ブラック・コメディなのですがエゲツなすぎて笑うに笑えない代物になっています。
どれくらいブラックかといえば、劇場にいた、人間が絶命するシーンでゲラゲラ笑っていたおじさんが終盤で無言になるレベル(実話)。明るいコメディを期待している人には全力でおすすめしません。
でも・・・こんなヒドい(褒め言葉)話ばっかりなのに、おもしろいしワクワクするのだから困ります。
自分は、『ドラえもん』におけるしずちゃんのパパの名言「あの青年(のび太)は人に幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだ」に従い、そう生きたいと思ってはいるんですが、やっぱ人の不幸って楽しいことに気づきました。人間ってゲスいなあ。
本作はIMDbでは8.2点、Rotten Tomatoesでは96%という超・高評価ですが、日本ではいい感じに賛否両論になっています。
なぜかといえば、日本人にとっては共感しにくいからでしょう。
本作の主人公たちは、気に入らないことがあると相手に攻撃します(おもに物理で)。
自分の欲望や本当の気持ちを隠すことなんかまったくしません。
日本人はたとえイヤなことがあっても我慢して泣き寝入りするか、ほかのことでストレスを発散するとか、そういう国民性だと思います(そうでない人ももちろんいますが)。
その人たちが本作を観れば「たとえ怒ってもそんなヒドいことしねーよ!共感できるか!引くわ!」と思うんじゃないでしょうか。
逆に考えれば、本国(アルゼンチン)で本作が大ヒットしているのは、怒り狂う主人公たちに共感を覚えていることも理由かもしれませんね。アルゼンチン行きたくねえ(←たぶん誤解)。
さて、本作の6話の物語は「怒りにまかせて行動した顛末を描く」という点で、共通したDNAを持っています。
邦題の「人生スイッチ」は決して的外れではなく、「怒りによる行動のスイッチ」を示しています。
ふつうの人間が、なぜ日常生活で怒りを我慢しているか?と問えば、そうすることで自分の人生が崩壊してしまう危険があることを知っているからですよね。
で、本作では怒り爆発→人生崩壊というゆかいなものがたりを見せてくれるのです。
反面教師的で、ある意味ではスカッとする(?)かもしれません。
普段怒りまくっている人にとっては、本作はいいストレス解消の材料になるかもしれませんね。
・・・まあエゲツなさすぎて逆にストレスがたまるかもしれませんが。
ちなみに、6話の物語の登場人物が交錯したり、話につながりがあるということはありません。
『マグノリア』のような人間が関わりあう群像劇や、『シン・シティ』のような「ほか物語の登場人物がチラッと姿を見せる」要素を期待するとちょっと肩透かしかもしれません。
しかし、先ほども言ったように物語は同じDNAを持っていますし、登場人物の放ったひと言の意味が、ほかの物語で本質的に理解できるようになっていたりもします。
決して6話が乱立されているわけではないのです。
なお、本作の原題は「Relatos salvajes(スペイン語)」、英題は「Wild Tales」です。
どちらも「野生の物語」を意味しています。
この「野生」というタイトルが示しているのは・・・人間には「理性」があるが、野性的な動物には理性がない、ただ本能のままに行動している、ということでしょう。
この映画で、自分は人間という存在がなんだか愛おしくなってきました。
人間はみんなが普段から「理性」を働かせて、日々を生きています。
そうでなければ、人間社会に適合できません。
でも本質的には人間は怒りの感情を持っていて、他人を攻撃したいと思っている・・・人間ってそんなもんなのです。
本作は、(反面教師的に)人間の理性について教えてくれる寓話と言えます。
そんな人間の本質を知りたい方はぜひ劇場へ。
あ、言い忘れていましたが本作のギャグはエグいだけでなくウ◯コチン◯ンレベルの低俗なものもあるので、苦手な方はご注意を。さすがはPG12指定、子どもは観ないほうがいいでしょう。
あ、もうひとつ言い忘れていましたが、本作は絶対に結婚前&知人の結婚式前に観てはいけない作品だと思います。
第6話「HAPPY WEDDING」が死ぬほどアンハッピーだもん・・・。
<(個人的に)結婚式前に観てはいけない映画ベスト3>
1位 人生スイッチ
2位 ゴーン・ガール
3位 リアル鬼ごっこ(園子温監督)
・・・と思っていたら、『ベリー・バッド・ウェディング』という作品もあるんですね。
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新郎がチェーンソーを持っているのが素敵ですね。自分は悪趣味なのでこっちも観たいぜ!
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
本作は予備知識がないほうが楽しめると思いますので、未見の方はマジで読まないほうがいいですよ。
〜我慢していればよかったのに〜
第1話「おかえし」では、女性が飛行機に搭乗するときに「会社のカードにマイルは貯められますか?」と聞いて、それができないと知ると「そう、それでもいいわ」と「許容」しています。
この映画では、いちばんはじめに「相手を許す」という模範的な行動をしている女性を見せ、その後に多様な「相手を許せなかったクズ人間たちの顛末」を描いているというわけ。いやーイジワルです。
ところで、この第1話で飛行機が突っ込んだ先は、逆恨みハイジャック野郎の両親の家だよね。たぶん。
〜刑務所も悪くないわよ!〜
第2話「おもてなし」では、積極的に「同僚の両親のかたきの政治家」にネコイラズを盛って殺そうとしているトンデモないおばさんが登場します。
このおばさんは「刑務所も悪くなかったわ、少なくともいまの生活よりわね」と言っており、ある意味では我慢して鬱積した日々を過ごすよりも、理性なんか捨てて刑務所に入ったほうがマシという価値観を持っています。ワイルドだろう?
そしてこのおばさんのひと言は、第4話において……。
〜「個人」の怒りと「全体」の怒り〜
第1話、第2話、第3話「エンスト」はどれも「個人」の怒りでした。
それはなーんの生産性もありません。
第1話のアイツは自分をディスったり留年させた人々を道連れにしただけだし、
第2話では復讐を果たせても誰の幸せは訪れないし、
第3話では互いに自滅していたうえに、死んでから「ゲイカップルが死ぬほどの喧嘩をした」と警察に勘違いされます(笑)。
だけど、第4話「ヒーローになるために」の主人公は違います。
この主人公の抱えていた怒りは、国民みんなが抱えていた怒りそのものなのです。
主人公は法律に背いた行いをしたけど、その怒りは世論を動かし、2話のおばさんが言った「刑務所も悪くない」生活を謳歌します。
タイトルの「ヒーロー」はじつは「ダークヒーロー」だったのですね。
この格好よさと、適当に社会に喧嘩を売っても何にもならないことをドローン少年に教えてあげたいです。
〜許せなかった結果〜
第5話「愚息」では、みんなが「個人(自分)」のことしか考えていない醜い話になります。
いや、一応父親は妊婦を轢き殺してしまった息子を大事に思っているんだけど、これもエゴだしなあ・・・。
第2話において、政治家が自分の息子を大切にしていた描写も台無しですね。
いろいろ策略をした結果、父親は「もうどうでもいいわ!暴露するわ!」となります。
しかも「(妊婦の夫の)怒り」によりすべてがポシャります。
やっぱり、「許す」って大事です。
〜本能〜
第6話「HAPPY WEDDING」のラストに納得できない人も多いのではないでしょうか。
だけど、本作は「WILD TALES」なのです。
夫は一度はナイフを持って妻を殺そうとした。
しかし、しなかった。
それどころか、あれだけ恨んでいたはずの妻とセックスをしようとした―
「相手を殺す」なんてことは、(それを食べて自分の栄養とする目的でなければ)動物的な本能からすれば・・・なんの意味も持ちません。
だけど、「交尾をして子孫を残す」というのは動物的な本能です。
最後は理性とか、結婚式という「人間的な形式」なんかぜーんぶ破壊して、マジで「野生の物語」としての結末を迎えているというわけです。ヒデえ(褒め言葉)。
書きましたよ!踏ん切りをつけてくださってありがとうございます。
地元シネコンで上映することになったので観て参りました。
南米映画ということと、『人生スイッチ』というタイトルで最初に想像していたのは『しんぼる』(2009年、松本人志監督主演)みたいな映画でしたけれども、カスリもしないくらい全然違ったよ!(笑
いやー、凄かった。2時間があっという間に過ぎてしまいました。
> 日本人にとっては共感しにくい
そうですね。
第4話はスカッとするラストではあるのですが、それ以外は結構サスペンススリラー入っていますし、ヒナタカさんも仰るように第6話のラストにはもにょる人も多い気はします。
しかし、むしろこのラストには意外性を感じ、そこを私は評価しました。
実際ナイフは出てくるし、片手に持った発泡ワインの瓶だって凶器に成り得るし、一触即発とはまさにこのこと。緊張のまま、最後まで終止しない。完全にブチ壊すでもなく、仲直りするでもない“宙ぶらりん”な感覚は、喩えるならば綱渡りで着地もせず落下もしないままでいるようなもの。このピンと張り詰めた感じはたまらなかった!
本作の何が一番凄いかって、画面的にはそれほどインパクトのあるシーンは無いのにアドレナリン出まくりだということ。
第3話が特に如実で、これって誰が観ても『激突!』(1971年、スティーヴン・スピルバーグ監督)のオマージュ。ですが、『激突!』がモンスタートレーラー相手に1時間半も走り回る映画なのに対して、こちらは乗用車がいきなりエンスト起こした挙句に両者ともスクラップになる短い話。規模的にも画面的にもチャチ。なのに凄いテンション。
事件の真相とは裏腹に、ゲイカップルの心中を疑われるラストには哀愁さえ感じさせました。流石にこういう死に方はしたくない…。
> アルゼンチン行きたくねえ
この映画が日本人ウケするかと言ったらノンですよね。映画慣れしていないと正直キツい。
それがアルゼンチンでは歴代興行1位というから、お国柄を表していると本当に思います。