悪を超えた悪がいる 映画『ナイトクローラー』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:超ブラック企業じゃん
あらすじ
鉄くずを売って暮らしていたルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)は、自動車事故の現場を撮影するカメラマンと出会う。
彼らに触発され、ルイスは夜の街を巡って事故や殺人現場を撮影する「パパラッチ(ナイトクローラー)」になろうと決心するのだが……。
最近の日本の映倫さんはおかしい(断言)。
のっけから映画本編とは関係ない話題で恐縮ですが、最近のおかしな映倫さんのレーティングの例を見ていきましょう。
<近年の厳しすぎるんじゃね?と思うレーティング>
マッドマックス 怒りのデス・ロード(R15+)→トゲトゲの車で走ったりガッシャンしているだけだからPG12でいいんじゃね。
<近年の甘すぎるんじゃね?と思うレーティング>
グランド・ブダペスト・ホテル(G(全年齢))→生首を大写しします。
her/世界でひとつの彼女(PG12)→主人公が冒頭でテレフォン◯ックスしていましたけど。
渇き。(R15+)→大々的に公開された映画の中ではトップクラスのインモラルさ。
極道大戦争(PG12)→人類には早すぎた。
虎影(G)→手首や首がもげていましたけど。
進撃の巨人 Attack on Titan(PG12)→原作の改変っぷりも含めて小・中学生のトラウマに
で、今回の『ナイトクローラー』はG指定なのですが、なんでこのレーティングなのかさっぱりわかりません。
なぜなら本作は、
・主人公が犯罪を犯しまくって成功する
・主人公は作中でそれを「いいこと」と肯定し、一切躊躇も後悔もしない
・倫理観や道徳なんかほぼ排除
・作中でみんなが「F◯CK」って言いまくり
というとーってもインモラルな内容なのですから。ていうかそれ18禁の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』といっしょじゃん。
作中では直接的な残酷描写やドラッグ吸引シーンなどはないのですが、これを子どもに観せてしまうといろいろと悪影響がありそうです。
少なくともPG12指定が妥当でしょう(ちなみにほとんどの国ではR指定です)。
PG12指定は鑑賞そのものを妨げるものではないので、個人的には「(インモラルな表現がありますよという)警告」的な意味で、もっとつけてもいいと思うのですけどね。
さて、本編についての特徴を一行で語るのであれば、
クズすぎる主人公がブラック企業を立ち上げて大成功!
で終わります(それだけじゃないけど)。
その具体的な会社の経営手法はネタバレになるので↓に書きますが、その手法は◯庄、ワ◯ミ、ヤ◯ダ電機がびっくりするレベルとだけ言っておきます。本当にヒドかった。
主人公はもともと泥棒で日銭を稼ぐクズだったのですが、やがて事故の現場を取材するパパラッチの仕事を知り、仕事を極めることでさらなるクズになろうとしています。
そのクズすぎる方法が突き抜けすぎて、ちょっとある意味で痛快に思えてしまします(←アブねえ)。
しかも音楽がこれまたすさまじくて……凶悪なことに、主人公がクズすぎる手段で成功をすると、青春サクセスストーリーのような爽快な音楽がかかるのです。
![]() | James Newton Howard 1583円 powered by yasuikamo |
ジェームズ・ニュートン・ハワードによるそのアンビエントな楽曲はそれ単体で心地よく、犯罪しまくりの本編においては、より一層の快楽を届けてくれるかのようでした。
いかに本作が、子どもにオススメできない内容かわかっていただけたでしょうか(わかってほしい)。
しかし、高校生以上、社会人になる前の若者にはぜひ観てほしい作品でもあります。
その理由のひとつが、クズ主人公の言うことに「一理ある」こと。
主人公は有名な社訓や名言をモットーに行動しており、そのひとつひとつは確かに経営者として、仕事をする人間としては「正しい」と思えるところがあるのです(まあトータルでは死ぬほど間違っているんですが)。
テレビ局に売るテープの値段交渉のシーンは、フリーランスの仕事をする人にとって(よくも悪くも)参考になりそうです。
もうひとつの理由が、反面教師的にこの映画を観られるであろうこと。
きっとこの作品を観ると、(ある部分では)「こうはならないでおこう」と思えるはずです。
それは「いくら成功したいからといって犯罪をしてはダメ」という単純なものから、「生きかた」を学べる大局的なものに及んでいると思います。
イジワルだなあと思うのは、「悲惨なニュースを見て楽しんでいるお前も同じ穴のムジナだよ」というメッセージが明らかに込められていること。
テレビでの事故の現場は、確かに目を引きます。
そのような報道がない日本においても、芸能人のスキャンダルや、2ちゃんねるまとめサイトの「炎上」は「おもしろい」ものであり、アオリかた次第でさらにおもしろくなります。
たとえ、それが「ウソ」「誇張」であっても……。
ウソや誇張がされた悲劇的な情報で「おもしろい」と感じてしまうのであれば、それはこの映画におけるクズ主人公と同じように、倫理観や道徳が欠如しているとも取れます。
本作を観れば、日常にあるニュースや情報について「正しさ」を考えるきっかけになるかもしれません。
ダン・ギルロイは『ザ・フォール/落下の王国』などで脚本を務めており、本作では初めて監督と脚本の両方を手がけています。
デヴィッド・フィンチャー監督を彷彿とさせる画作り、会話劇での緊張感にはほれぼれしました。
また、ぜったいに言っておかなければならないのはジェイク・ギレンホールの怪演でしょう。
本作では「無表情の演技」が多いのですが、その無表情こそがもっとも怖いという、超絶技巧の演じかたをしています。


『遠い空の向こうに』で夢を見続けていた少年が、こんなクズに成り果てるなんて……役者ってすごいです、本当。
公開劇場が少ないのが残念ですが、近くで上映していたらぜひ観てほしい秀作です。
できれば、史上最高のクズを観るんだ!と意気込んでからどうぞ。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜ブラック企業の成功術〜
主人公・ルイスは
(日雇いの仕事を頼むときに)「ぼくは勤勉でデキる人間です」
「成功のいちばんの鍵はコミュニケーションだ」
「目的を意識するほうが大事だろ」
「行動に移る前に自問をしろ」
「友だちとは、人が自分自身に贈るギフトだ」
などと、もっともらしいことを言っていました。
恐ろしいことに、ルイスはこれらすべてを初志貫徹しています。
本当にルイスは勤勉そのもの(インターネットでの情報収集は怠らない)で、目的のためなら手段を選びませんでした。
一方で、学もなくわけもわからずバイトに来ていた部下のリックは、わずかな金ばかりを求めていて、考えなしに行動して(道の指示を間違えて)失敗していました。
そして、ルイスはリックとコミュニケーションを取り続けることで、最終的にうまく「死なせるよう」に操ったのです。
(昇給をチラつかせたり、たまに褒めたりしてアメを与えたりもしていました)
すべては「自分、または莫大な利益のため」。
そのためには、部下を低賃金で働かせ(しかも始めは研修ということで無償)、リストラする(殺す)ことも厭わない。
自身の信念にはまったくウソを言わないけど、経営体制にはウソばっかり。
(ついでに「未経験者可能!」な求人もブラック企業っぽいですね)
まさに、ルイスはブラック企業の社長です。
最後にルイスが、雇った正社員たちに「君たちは僕の指示に必ず従うように。僕がしないことはぜったいにするな」と言うのも、部下をコントロールすることで過度の成長を抑制する、もっと言えば社長のイスを譲らないための方便に思えます。
〜ルイスという人間〜
中盤に、ルイスがアイロンをかけながら中世っぽいドラマを観て、思わず笑ってしまうというシーンがありました。
植物に水をあげているシーンもありましたし、もしかするとルイスにも少しは人間らしいところもあるのでは?とも思わせます。
しかし、それ以外のルイスは人間味なんてひとつもない、ある種の怪物のような存在です。
同業者からの誘いは一切聞かない。
よりよい映像のためには死体を動かすことも厭わない。
殺人が起きた家には不法侵入だろうがおかまなく入る。
同業者が事故に会ったときには無表情で見下し、その映像は「タダのおまけ」としてテレビ局に提供する。
殺人者を泳がせておいて、さらなる衝撃映像を撮ろうと画策する。
部下を口封じのために殺す……
そしてルイスは監視カメラにこう言い放ちます。
「僕は人の破滅の瞬間に顔を出す」
ルイスは低賃金で雇われたり、刺激的な画を求める大衆が生んだ「悪」です。
それが、さらに弱い立場の者を食いものにするという悪循環……これもブラック企業らしいですね。
〜悪を超えた悪〜
もうひとり、ルイスよりも「悪」と呼べる存在がいます。
ローカル局の監督であるニナです。
ニナはルイスに刺激的な映像を求めて続け、明らかに違法な行為をしていても正当化します。
(それは、実績がなければクビを切られてしまう身であったことも理由なのでしょう)。
ルイスがニナとデートをしていたのは、「恋人」にして利用しようとする魂胆があったのでしょう。
けっきょくデートでは、ルイスは「あなたがいなくても会社は回るわ」言われてしまします。
その後もニナは、テープの値段の交渉で、何とかルイスと対等な立場にいようとしていました。
そんなニナも……ルイスが持ってきた犯罪まみれの映像を(そのことをわかっていても)「素晴らしい(Amazing)わ、好きな金額をお願い」と言ってします。
あまつさえ、ニナは一家の殺人がドラッグの密売が原因だとしても、それを公にしようとはしません。
その理由は「私の(善良な白人が貧しい黒人に殺される)物語」であるから……。
ルイスは、完全にニナの心理を掴み、「上」に立ったのです。
それと同時に、他人の犯罪をも正当化してしまえるニナのほうが、より醜い「悪」にも思えてきます。
〜虚構での成功〜
中盤に、ルイスとニナが「夜景の写真」の前で握手をしたシーンも印象的でした。
これは、両者が真実を捻じ曲げた「虚構」で成功をする未来を暗示していたのでしょう。
もしかすると、ルイスがテレビ番組(ウソ、虚構)を観て笑っていたのも、「最後に自分が笑う」未来を示していたのかもしれません。
けっきょくのところ、ルイスは交渉も言うとおりにならないどうしようもない部下は低賃金で利用しまくったうえに殺し、地位のある女性はうまく操って金をいくらでも貢ぐパトロンにして、社会的に大・大・大成功しました。
……そんな成功のしかたはしたくないですけどね。
おすすめ↓
狂った面白さに映画ファンは虜! 『ナイトクローラー』監督インタビュー「終わりないバイオレンスを撮りにいく」 | ガジェット通信
(C)2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
面白い映画でした!
ただ私は「ブラック企業~」というよりかは、彼自身が虚構(インターネット上の情報)の上に成り立ってるように感じました。
冒頭ででた「経営学をネット講座で受講した」とかで彼がネット上から聞きかじって作られた哲学・言葉の持ち主であることがわかりますし、(むしろ彼自身の過去の経験からくる話・言葉がほとんどない)それが余計無機質さをだしてるというか、、
ヒナタカさんがおっしゃる「ブラック企業云々~」もむしろそれ自体がネット上の情報で作られた感想のように感じでしまったのでコメントさせていただきました
失礼
アメリカ本国で記録的なヒットを飛ばしていたって聞いてかなり楽しみでしたが
クズがクズなりに知恵使ってトントン拍子にのしあがっていく様は、胸糞悪すぎて逆に快感すら覚えました。
ダン・ギルロイ監督は本作を「のしあがる為なら何だってやる」と言う資本主義そのものを
俯瞰した視点で皮肉混じりに描いていますが
最もそれが現れてるのがルーの弟子兼助手のリックに対する態度ですね。
最初は研修期間だからと安月給に強引に納得させそこそこ時間が経った後も
まだ経験が足りないだの仕事が酷いだの難癖つけて体よく利用し
そしていざ楯突くやいなや、やや強引な方法で無理矢理切り捨てる…もうブラック企業のお手本のような手順ですよね
商売仇すら自分のネタにしてしまうあの貪欲さ含めマスコミのあり方だけでなく
今我々が生きる競争社会の縮図そのものを見せつけられたような気がします。
何より僕がゾッとしたのはリックが死んだ後テレビに乗り込む時キャスターに仕事ぶりを褒められ
悪魔のような高笑いをするところですね。悪魔に魂を売るどころか最初から文字通りの悪そのものであると言うことを痛烈に印象付けられました。
因みにニナがルーにつられて真っ黒に染まる段階で既にニナはルーに抱かれていたような暗示がありますが
そこはちょっと個人的に見てみたかった気がしますねw
あと予告編で印象に残った台詞「宝くじは買わなきゃ当たらない(予告訳だと「リスクをとれ!」ですが
序盤産廃業者に自分を売り込む場面でしか劇中では言ってなかったですね。
その分行動で嫌と言うほどそのアイデンティティーを証明してましたが
ゲスな輩のサクセスストーリーと言う意味ではゴーンガールにも似た部分がありますが
僕はゴーンガールよりこっちの方が断然好きですね。
予告編も見ずに前評判だけで鑑賞しました。冒頭だけ見て「あぁ、主人公が自ら事件を起こして撮影するんだな。最終的に主人公が被写体になるラストかな」などと考えていたら、甘かったです!
予想以上にスッキリした終わり方で大満足です。
ヒナタカさんも触れていますが、一貫性のある吹っ切れた主人公と、なんとなく夜明けを感じさせる明るいBGMによる演出で、私の感覚が麻痺したせいでしょう。段々と主人公を応援する気持ちになっていました。
もう一度観に行く予定です。
ところで主人公の最後のセリフは「俺のやることは全てやってもらうぞ」という、宣戦布告というか覚悟を問うみたいな意味かと思ってました。それに気付かず元気よくバンに乗り込む新入社員の運命やいかに……とゾクゾクしておりましたが、ヒナタカさんの解釈も興味深いですね!
途中ででてきましたが、同業者が事故ったのはルイスがその前に車の下で、何か工作をしてたからではないでしょうか?
そして事故ったみたいな。見間違いかな。
はじめの方でカメラを買うために自転車泥棒してたし、もともとルイスは泥棒で冒頭に警備員を暴行してましたよね。
なので、目的のためなら犯罪もいとわないルイスが段々凶暴になっていったのかと思います。
あと、途中のシーンで頭上に両手でカメラを掲げて事故の映像を撮ってましたが、その時のルイスの雰囲気が、両手を掲げて神に祈りを捧げているように見えました。