映画『PAN パン ネバーランド、夢のはじまり』黒ひげが本当に望んでいたこととは?(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
個人的お気に入り度:7/10
(3Dで観れば8点、4DXで観れば9点)
一言感想:楽しいけど、深い
あらすじ
少年ピーター(リーヴァイ・ミラー)は住んでいた孤児院から、異世界のネバーランドに連れてこられてしまう。
彼はそこで出会ったジェームズ・フック、村の女戦士タイガーリリーとともに、ネバーランドを支配する海賊・黒ひげに立ち向かっていくが・・・
『プライドと偏見』『つぐない』のジョー・ライト監督最新作にして、世界中で親しまれている戯曲・小説『ピーター・パン』の実写映画化作品です。
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本作は全米での評価、興行収入ともに芳しくはありませんが、それはあまり気にせず、堂々と観に行ってもよいでしょう(その理由はこちら↓)(日本ではなかなかの好評です)
<映画『PAN パン ネバーランド、夢の始まり』が全米でネガティブに捉えられているふたつの理由>
突然ですが、クイズをひとつ。
本作『PAN ネバーランド、夢のはじまり』でフック船長を演じているのは誰でしょう?

チクタク・・・ポーン。
答えは?うんうん、予告編やポスターでも目立っているヒュー・ジャックマン様ってみんな答えるよね。はい、残念!(笑顔で)
本作でフックを演じているのはギャレッド・ヘドランドであり、ヒュー様が演じているのは「黒ひげ」なのです。


このヒュー様が黒ひげとして登場したときの誰だお前な感じもおもしろいですね。
黒髭とは実在していた海賊の名前で、当然原作の『ピーター・パン』には登場しません。
本作は悪役を別に据えることで、(後に敵どうしとなる)ピーター・パンとフック船長の馴れ初めを描いた作品とも取れます。
本作のフックは「一見するとこいつ本当にフック船長なの?」と思えるキャラなのですが、ところどころに「ああ、後にフック船長になるんだなあ」と思える描写もたっぷりあります。
はじめてピーターとフック船長が出会うくだりにも、その「くすぐり」が存分に描かれているのでぜひ注目してほしいです。
そして本作は・・・ファンタジー世界で『インディー・ジョーンズ』のような冒険活劇が楽しめるという点で、100点満点の作品でした。


空飛ぶ海賊船に乗れる!ネバーランドでは大冒険!ファンタジックな映像満載!
映画のおもしろさの根源のひとつは「普段体験できないものを観ることができる」ことだと思います。
その魅力を最大限に体験できる本作のことは、それだけで好きにならざるを得ません。
「いくらお金をかけたんだ?(実際は1億5000万ドル)」とびっくりする映像マジックが惜しげもなく投入されている作品なので、ぜひ3D、もしくは4DX版で観ることをおすすめします(吹き替え版と字幕版のどちらがおすすめかということも書いています)↓
<『PAN ネバーランド、夢の始まり』は少なくとも3D、ぜひ4DXでこそ観るべき4つの理由>
さてさて、本作にある批判的な意見は、物語性が薄くて物足りないということがほとんどでした。
でも、自分は「そんなことはない!」と主張したいです。
理由のひとつが、敵キャラ・黒ひげの描写です。
詳しくはネタバレ↓に書きますが、本作をよくよく観れば、黒ひげが複雑な心境を抱えている人物であることが描かれています。
これから観る方は、黒ひげがピーターを部屋に呼んだときのやりとり、その表情の変化に注目してみてください。
後々で示される「過去」を思えば、黒ひげがなぜそのような質問をピーターに投げかけたのか、彼が本当に求めていたものが何なのか・・・それがわかるはずです。
何よりの問題は、キャラクターの内面がわかる描写がわりとサラッと流されるために、奥深さを感じにくいことでしょうか。
本作は矢継ぎ早にアクションが展開する冒険活劇であるため、そこを短く描く意図はとてもよくわかります。
しかし、『つぐない』などで卓越した登場人物の心理描写を見せたジョー・ライト監督と、この冒険活劇としての『パン』は少し食い合わせが悪く感じてしまいます。
まとめれば、登場人物の内面は作中でしっかり描かれているが、その時間が少なすぎるために感じにくい、ということです。これは明らかな欠点です。
個人的に残念だったのは、『ピーター・パン』ならではの「毒」のある描写がほとんどなかったこと。
ピーター・パンが「永遠の子ども」であることは、現代ではピーターパン症候群というパーソナリティー障害の名前にも用いられていますし、原作には夢いっぱいの冒険だけではない、毒々しい要素がたっぷりあります。
このあたりは、オトナになったピーター・パンの冒険を描いた『フック』や、哲学的な要素も満載の2003年版の映画を観て、補完しておくとよいかもしれません。


また、本作の終わりかたも賛否両論を呼ぶ理由につながっています。
そのオチはネタバレになるので↓に書きますが、はっきり否を突きつける方もきっと多いことでしょう。
あとね、本作はディズニー映画に出てくる悪役をそのまま3次元化したようなババアが超魅力的な映画なのですよ。

この孤児院の院長であるマザー・バーバナス(役名)を演じているのはキャシー・バークさん。
役作りが完璧で、しかも戦闘能力が高いババアを演じている時点で感動しました。
今年の「ババアが強い映画ランキング」は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と本作がツートップで確定です。
なお、このババアは冒頭で海賊旗を掲げていて、ネバーランドから来る海賊船を呼んで孤児たちを売り飛ばしているという描写があります。つまりこのババア、ネバーランドと癒着があります。
引いてはこの描写のおかげで、「第二次世界大戦中(映画オリジナルの設定)なのに、ババアは孤児院に物資を貯めれている」ということが説明できています。
ネバーランドはババアによる裏取引の相手という斬新な解釈(笑)ができているというのが楽しいですね。
また、物資を貯めている倉庫への入り口を、マリア像の鼻を捻って開けるというシーンもありました。
これは、ババアが「神なんか信じない、私が信じるのは金だけよ!」な無神論者であるということを示していたのかもしれません。
もうひとつ豆知識を。ピーター・パンの名前であり、本作のタイトルになっている『PAN』は牧神パンが元ネタになっています。
本作での「PAN」は「勇気ある者の名前」という呼ばれかたをしていますが、もともとは「妖精たちと混じって遊ぶ無邪気な者」「(妖精に恋するような)妖精に近い存在」として、ピーター・パンにこの名前が付けられていたそうです。
本編を観終わった後に、この名前を省みると・・・さらに奥深く感じられるストーリーなのかもしれません。
とまあ、いろいろと書きましたが、基本的に「超楽しい!」「夢の世界を体験できた!」という小並感ですべてがオッケー!な映画です。
家族でも、デートでも大推薦です。
そんな内容でも、オトナは悪役・黒ひげの内面を考えてみることをオススメします。
しつこいように言いますが、少なくとも3Dで、できれば4DXでこそ観ましょう。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜野暮な不満点:前日譚としてそれはどうなの?〜
誰しもが思う不満は、「ピーターとフック船長はなんであんなに仲が悪くなったの?」という疑問が最後までまったくもってわからないことです。
それどころか、映画の最後にふたりはこんなやりとりをするんですよね・・・
ピーター「僕らはずっと友だちだよね!」
フック「ああ、ずっとさ!」
違う・・・違うよ・・・あんたらこのあとに敵どうしになるやん。
このハッピーエンドっぽいのに、どんよりした未来しか見えないというのは、かなーり居心地の悪さを感じてしまいました。
しかも冒頭のナレーションでも「敵だった者が、味方だったこともある」などいうことが提示されているし・・・。
よかったのは、字幕のやさしさ。
フックは原語では「for a long time(長い間友だちさ)」と言っていたのですが、これが字幕では「ああ、ケンカなんかするはずないさ!」になっていました。
この字幕であるなら、未来に対する「ちょっとしたイジり」程度に思えるので、それほどイヤな印象はありません。
そのほかの不満点としては、ピーターの高所恐怖症という設定にそれほど意味がなかったこと。
終盤でピーターが海賊船から海賊船に飛び乗るときに高所恐怖症を克服できたような演出があったのですが、その前にもピーターは崖のすぐそばにいた「ネバーバード」を乗りこなして「イエー!」って喜んでいるんですよね。ちょっとちぐはぐな印象があります。
(冒頭で海賊船から降りられなかったことが伏線になっていたのはよかったです)
あとは、ラストバトルで小船とともに落ちていったスミーはどうなっちゃったんでしょうね。
彼は味方を売ったクズとはいえ、次回作ではフックの一味となっていることを期待しています。
〜フック船長になるフラグ〜
本作のフックはパッと見ではあのフック船長には思えませんが、ところどころで「らしさ」を見せています。
・はじめてピーターと出会ったとき、鉤爪(フック)を研いでいた
・ピーターの独房への穴を鉤爪で掘っていた
・ピーターはフックが仕掛けた爆弾の秒読みを「チクタク(Tick - Tock)・・・」と言っている
これを聞いてフックがすげえ嫌がっているのは、後々チクタクワニが天敵になることをイジっていますね
ちなみにチクタクワニは、「Clock(時計)」と「Crocodile(ワニ)」という言葉遊びがされているキャラになっています。
・フックは川に手をつけるが、タイガー・リリーに「この辺りにワニがいる」と言われて引っ込める。
でもけっきょく手が食べられることはなかったですね。
どうでもいいかもしれませんが、このときフックは右手を川につけています。フックの鉤爪が右手になっているのはディズニー版、左手になっているのは原作版とのことなので、本作はより原作に近い設定にしているのかも。
〜黒ひげのキャラクター〜
黒ひげが本当は何を求めていたか・・・結論から言えば、彼はピーターに殺されたかったのだと思います。
その理由を考えてみましょう。
のちに語られる昔話において、黒ひげのお気に入りだったメアリー(ピーターのお母さん)は戦士であり、妖精の王子(ピーターのお父さん)と妖精たちとともに、黒ひげと戦っていたことがわかります。
黒ひげとの戦いの末・・・黒ひげはメアリーにこう言います。
「俺と生きるよりも、やつらと死ぬのか」
その後に黒ひげはメアリーを殺してしまい・・・「死ぬな、メアリー!」と絶叫します。
黒ひげは、本当はメアリーと一生を過ごしたかったのです。
彼がマスクをつけて「若返り」を願っていたり、妖精の国で永遠の命を狙っていたりしたのは、本当はメアリーとずっといっしょにいたかったからにほかなりません。
だけど、もうメアリーはいません。若返りなんて、もうなんの意味もありません。
それは黒ひげ自身もわかっていたことなのではないでしょうか。
その証拠に・・・黒ひげは出会った「自分を倒すと予言された伝説の子」であるピーターに、わざわざ(自分を殺す武器になりえる)剣を渡していました。
ピーターが黒ひげの予言を「それはおとぎ話(Bed Time Story)だよ」といったとき、黒ひげは一瞬だけ寂しそうな表情をしました。
黒ひげは、「自分を倒す子ども」の予言が、本当であってほしかったのでしょう。
終盤でピーターを殺せる状況になった黒ひげが「殺さないさ、とても殺したいがな!」と言ったことも、ピーターがまだ自分を殺してくれることを願っていたことを示しているのではないでしょうか。
これは、自分の想い女と一生を過ごすどころか、その彼女を殺してしまった・・・それどころか彼女がこの世にいないと知っても、まだ「永遠の命」を求める、悲しき男の物語なのではないでしょうか。
黒ひげはその矛盾がわかっているからでこそ、自分を止める(殺す)者が現れることを望んでいたのではないでしょうか。
〜現実主義者のピーター〜
黒ひげと対照的に、ピーターは伝説やおとぎ話を信じようとしない現実主義者でした。
・黒ひげ「お前は勇敢か?」→ピーター「そうなろうとしている」
・ピーター「笛が証拠になるから、飛ばなくてもいいじゃないか」
・ピーターはお母さんが生きている「真実」を重要視している
言い換えれば、ピーターは伝説などに頼らずに、自分で強くあろうとするキャラクターとも取れます。
つまり、ピーターは現実主義者だからでこそ、「空を飛べる」というおとぎ話のようなことを信じられなかったところもあるのではないでしょうか。
また、最後に彼が飛べたのは、「友だちが近くにいたから(信じることができたから)」です。
中盤でピーターが飛ぶ練習をしようとしたとき「こんなときニブス(原作からいるピーターの友だち)がいてくれたらなあ」と言っていました。
最後には戻ってきてくれたフックがいたから・・・彼を友だちだと認めたからこそ、ピーターは飛べることができたんですね。
〜「いいことを考えろ(Think Of A Happy Thought)」〜
最後にピーターは、妖精を使役して黒ひげに飛びかからせます。
このとき、ピーターは「いいことを考えろ(Think Of Happy Thought)」と言っています。
この言葉は、ディズニーアニメ版の『ピーター・パン』の楽曲「You Can Fly! You Can Fly! You Can Fly! 」の歌詞にある、「You think of a wonderful thought!」「Think of the happiest things.」のもじりでしょう。
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<You Can Fly! You Can Fly! You Can Fly! の歌詞はこちら>
ディズニーアニメ版で,、ピーターパンに「You Can Fly!」ということを信じた子どもたちは・・・そう、(この楽曲が流れたとき)空を飛べているんです。
すなわち、ピーターは最後に黒ひげに「楽しいことを考えて、飛んでみろ!」と言っていたんです。
だけど、黒ひげは楽しいことを考えることはできませんでした。
それどころか序盤では、黒ひげは「ドロドロした黒い闇の夢の中にいる。それは死だ」ピーターとの会話で言っています。
メアリーを失ったことにより、黒ひげは楽しいことなんて、信じられなかったんです。
そして黒ひげは、作中で合唱していたニルヴァーナのSMELLS LIKE TEEN SPIRITの歌詞と同じように「How Low(どこまで落ちるんだ)」と言いながら落ちてしまう・・・なんという悲劇なのでしょうか。
暗いことを考えすぎても、過去を悔やんでも、いいことなんてない。
大切なのは、信じるきもちなのです。
(C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
これでお気に召さないとかドンダケ贅沢なのよ・・・。これでは「ギャラクシー街道」を「ジーン・ロッデンベリーへ捧ぐ」とか付けて全米公開したら暴動が起きそう・・・。
あ、ヤバイ。無表情で核ボタンを十六連射するオバマ大統領が見えてきた・・・。
>黒ひげがピーターを部屋に呼んだときのやりとり、その表情の変化に注目してみてください。
「私を“パパ”と呼んでくれてもイイのだよ・・・?」オマワリサーン!な想像をした私はもうネバーランドに入国拒否されると思います。はい。
>マザー・バーバナス(役名)
この腐れ生臭尼の所業に「あなたを抱きしめる日まで」のヒルデガードを思い出して脳が沸騰しました。本気でラストにドイツ機の爆弾が頭上に落ちて来て爆死してくんねえかな・・・と思うくらい。
>~野暮な不満点:前日譚としてそれはどうなの?~
一番知りたかった事なのですけど、今ではこの次元でのピーターとフックは「ずっとともだち!」な並行世界だと思いたいです(アメコミ読者流現実逃避)
>ピーター「僕らはずっと友だちだよね!」
>フック「ああ、ずっとさ!」
オマエら、もうこのままグランドラインに旅立っちまえよ!海賊王目指しちゃいなよ!!
>~黒ひげのキャラクター~
彼が外の世界からどうやってネバーランドに来たのかも知りたかったですね。
「友達は敵になる。敵は友達になる」ピーターとフックの未来を暗示するようなセリフが、さらりと入ってました。
3Dで見れば良かったかなと後悔してます。
2Dではもう観ていたのですが、4D!行って良かったです‼
黒ひげサマの憂いにも「そうだったのかぁ」と気持ちが入り、もらい泣きしてしまいました。
2Dでも私は気に入ってたんだけど、これは4Dで観ることができて本当に本当に良かったです。
かげひなたさんに感謝を伝えたくて!
> 2Dではもう観ていたのですが、4D!行って良かったです‼
> 黒ひげサマの憂いにも「そうだったのかぁ」と気持ちが入り、もらい泣きしてしまいました。
> 2Dでも私は気に入ってたんだけど、これは4Dで観ることができて本当に本当に良かったです。
> かげひなたさんに感謝を伝えたくて!
どうも!周りにも4DXを勧めて、観た方が多くてよかったです!
それ以外は楽しめました。
インディアンの扱いについてはこの作品の難しいところですね。
インディアンの戦士といっても今の子供たちにはぴんと来ないでしょうし。
原作も面白いのですが、やはりピータパンの人気を支えているのはディズニーによるところが大きいなと思いました。
黒ひげが何故空を飛んだ直後のピーターを殺さなかったかが
ずっと疑問だったのですが、記事を読んで納得しました!
黒ひげの表情も確かに印象的でしたね…
映画に出てきたタイガーリリーは先代という扱いなのかな?
映像も綺麗で素敵な映画でした!
見終わったあと、いろいろ検索していたらこちらの記事に辿り着きました(^.^)
黒ひげの心情の考察になるほどなぁ〜と思いました!
部屋にピーターを呼んだとき、ピーターと話す黒ひげの表情はなんだか優しそうにも悲しそうにも見えてとても印象的だったので、過去の出来事からいろいろ複雑な心境があったから、とわかってなんだか黒ひげに共感してしまいました。
プライドが高くて意地っ張りで、でも寂しくて悲しかったんだろうな…
私も気になるのは、やっぱりラストの方の海賊船から乗組員が次々と落ちて行く中、スミーは小さい船に乗って落ちていったけど…生きてるのかどうか!
まぁ…スミーみたいな奴はなんだかんだ生きてますよね!笑
ディズニーのアニメでは、うろ覚えだけどフック船長の一番の右腕?手下?金魚のフン…だったような気がしますし!
長々書いてしまいましたが、こちらの記事の考察でより深くこの映画を理解できてよかったです!(^o^)
よかった!ぜひほかの記事も観てやってください!