映画『ラスト・ナイツ』監督らしさも忠臣蔵らしさも少なめ(ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
個人的お気に入り度:5/10
一言感想:キリキリの個性がなくなっちゃった
あらすじ
政治家が台頭し、騎士の地位が脅かされる世界にて、バルトーク卿(モーガン・フリーマン)は反逆罪に問われてしまう。
死刑判決が下さたとき、まな弟子であった騎士ライデン(クライヴ・オーウェン)は彼の斬首を免じられるが・・・
毎度映画ファンからは嫌われまくり、一方でわりと愛されている気がする紀里谷和明監督のハリウッド進出作です。
親しみを込めて、以下より紀里谷監督のことをキリキリと呼ぶことにしましょう。
キリキリ監督の代表作にして出世作『CASSHERN』の問題点って何でしょう。まあ何よりも盛大な演説大会が始まること(有村昆もそう呼んでいた)ですよね。

もはやその演説っぷりは酷いを通り越して一周回っておもしろいレベルですが、映画をよく観ている方からは「全部語ってどうすんじゃボケ」と大ブーイング。
これを反省してか次回作『GOEMON』では演説大会の割合がかなり減っていました。
![GOEMON [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/61k-k-HKzUL._SL160_.jpg)
ひとりよがりなストーリーにも若干の修正がみられましたし、荒唐無稽なアクションとバカ映画に徹した作りはわりと好まれました(オープニングは腹筋が崩壊しかけるほどに笑った)。
で、本作『ラスト・ナイツ』では演説大会はほとんどなくなっちゃった。
キリキリは今年放送された「しくじり先生」でも、『CASSHERN』批評家の反応をめっちゃ気にしていたことが語られていたので、けっこう周りの意見を反映して作品作りをする方なんじゃないかと思います。
参考↓
<映画監督・紀里谷和明が映画コメンテーター・有村昆をフルボッコにwww ネット上で絶賛の嵐 - AOLニュース>
しかし・・・本作『ラスト・ナイツ』には『CASSHERN』や『GOEMON』のような荒唐無稽さはない、シリアスな笑いがほぼ皆無のド真面目な映画になっちゃいました。
違う、こんなの僕らの愛していたキリキリじゃない。「ぜんぶ自分の想いを語っちゃえ☆」な作風で映画ファンからの失笑と憎悪を買う芸風はどこに行っちゃったんだ(※キリキリは芸人ではありません)。
また、これまでの作品では青を基調とした画の中に妙にcolorfulな装飾やハレーションがあったのですが、本作では青白い画に一辺倒。
寒々しい中世っぽい世界の雰囲気はとてもいいのですが、画作りでもキリキリの個性が消えたのは残念でした。
本作は一応忠臣蔵をベースとした作品であり、だいたいの大筋はそれをなぞっています。
でも、君主国家にて地位の低い者たちが反逆をするという流れはわりとハリウッド映画でもありふれたもの。本作はあらゆる意味で個性がない作品に仕上がってしまいました。
『47RONIN』は、あれほどまでに忠臣蔵をリスペクトし、『ロード・オブ・ザ・リング』の世界に『モンスターハンター』が混ざったような素敵なバカ映画だったのに・・・
これはキリキリの成長と捉えるべきなんでしょうが、個人的にはちょっと残念。
彼はPV出身なのに、既存の映画の常識を製作過程においてもぶっ壊そうとして映画関係者からも嫌われたアナーキーな方。
ハリウッド進出は「こんな日本映画界やだい!ハリウッドで撮るもん!」という想いが叶った結果。
そんな彼のアグレッシブな作品を期待していたら、出来上がった作品がふつうというのはやはり残念でした。
※参考↓
<紀里谷和明監督、ハリウッド進出作品『ラスト・ナイツ』に込めた想い 「映画は僕にとって壮大な独り言」 - ハードワーカーズ>
今回はキリキリは脚本を手がけていないので、いままでの作品とは異なるのは致し方のないことなのですけどね。
さて、キリキリの来歴や個性を考えなければ、映画本編は真面目な「騎士もの」として十分おもしろいです。
国家に反逆を誓う過程、主人公の環境の描写はしっかりしており、アクションも迫力もあるものに仕上がっています。
序盤〜中盤のテンポがやや悪くて退屈さが否めなかったりするのですが、これくらいであれば許容範囲でしょう。
問題は、反逆を誓う騎士のメンバーの個性がちっとも描けていないこと。
主人公のことはとってもよくわかるものの、ほかのメンバーが誰が誰やら、どういう想いを持っているのかがほとんどわかりません。
なお、PG12指定作品ですが、そこまで残虐な描写はありません。
子どもには話が退屈だと思うので、高校生以上に推奨します。
結果的に本作は本国では大コケ、日本でも12位発進という絶不調になってしまいました・・・。
クライヴ・オーウェンとモーガン・フリーマンの豪華共演ももったいないです。
がんばれキリキリ!実家が金持ち(パチ屋)だったりするのは気に入らねえけど、ちょっと応援したくなったぞ(上から目線)。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜そもそも忠臣蔵とは違う気が・・・〜
忠臣蔵のストーリーをおさらいしましょう。
・大廊下で赤穂藩藩主・浅野内匠頭が吉良上野介を斬った
・浅野は即日切腹を命じられ、赤穂藩も取り潰しとなってしまう
・浅野が刃傷に至るまでの経緯は明かされず、吉良はまったくのお咎なしだった
・浅野を慕う大石内蔵助を始めとする家臣47人が、吉良を討つために立ち上がる。
本作においては
浅野内匠頭=バルトーク卿(モーガン・フリーマン)
大石内蔵助=ライデン(クライヴ・オーウェン)
になるわけですね。
それはいいんだけど・・・バルトークが貴族を斬った理由が、忠臣蔵のような「怒り」によるものというよりは、ほぼ正当防衛みたいなもんだったんだけど。
それどころかバルトークは公然の場所で貴族を侮辱(真実を告げた)し、忠臣であるライデンが余儀なくバルトークの斬首をすることになる。
よくも悪くも、これは忠臣蔵からは離れていますよね。
忠臣蔵は慕う者への忠義を描いた作品なのですが、この『ラスト・ナイツ』では慕う者を殺さなければいけなくなる、という展開にしています。
個人的にはバルトーク橋が公然と貴族の問題点を言うくだりは好き(ここだけキリキリの演説っぽいと言えばぽい)なのですが、忠臣蔵に思い入れがある人からすれば「ふざけんな」かもしれません。
〜クズになる主人公〜
いやあ、中盤からライデンが飲んだくれのクズになる様は最高でしたね!
真昼間から酒浸り!
妻にカゴを編ませて自分は働かないヒモ!
娼婦とお風呂でいちゃいちゃ❤︎しちゃう!
バルトークの娘を助けずに無視する!
それどころかバルトークから授かった剣を酒のために売っちゃう!
いっそ清々しいですが、これは貴族の使者をあざむくため=油断させてそのスキに突撃するための演技であり作戦でした。
その後の展開を考えれば予想できることなんですが、クズっぷりが真に迫っていたのですっかりだまされたよ。
まあ娼婦の背中に城の地図が描かれてあったのは無茶な気がするけど。手塚治虫の『どろろ』を思い出した。
〜鏡は侵入するためのもの〜
↑ではシリアスな笑いがほぼ皆無とは言いましたが、貴族に贈られたプレゼントの巨大な鏡の中に騎士が潜んでいて、バリィッと突き破って出て来るのは爆笑しました。
〜忠義〜
最後は、伊原剛志演じる男が、ライデンの斬首を余儀なくされます。
反逆者が許されないというバッドエンドにも思えますが、慕う者を殺してでも不正を正す、それこそが慕う者への忠義であるという信念がみえました。
・・・それはやっぱり、ちょっと忠臣蔵と違う気がするけどね。
否定的な意見↓
<紀里谷監督のナルシシズムは健在。映画「ラスト・ナイツ」|忍之閻魔帳>
中立的な意見↓
<~紀里谷和明の魂と騎士たちの信念が重なる無国籍忠臣蔵~「ラスト・ナイツ」ネタバレレビュー - 頭の中の感想置き場>
肯定的な意見↓
<ラスト・ナイツ (Last Knights) 感想 忠臣蔵×ハリウッド=新感覚王道アクション - きままに生きる 〜映画と旅行と、時々イヤホン〜>
それにしても撮影と編集酷かったですね。
ハリウッドの商業レベルでは失格の域です。
唯一キリキリらしさはモーガン・フリーマンの演説でそこだけがキリキリの作家性満載ですね。
キラキラCG映像はなかったですがそれがないとある意味キリキリの映像感性が貧困だと感じました。
(キリキリ映像派と呼ばれてるけどそこが一番ダメな監督だよね)
キリキリの映画では唯一不快にはならないけどキリキリの才能の無さや退屈と言ったキーワードが入る普通につまらない映画になったかな?
>CASSHERN
デビュー作でいきなり、“みんなが愛してる原作”という褌を借りて、“自分のやりたい事という”うんこ塗れにするという、近代邦画界の伝統的悪行を見せてくれたのは許さない!絶対に許さないよ・・・!!
でも予告の鉄の悪魔を叩いて砕く!は本気で期待しました。それ故に!それ故に・・・!!
>GOEMON
予告のハートキックでハートキャッチされ、CASSHERNの怨みをスッカリ忘れる。中二心をくすぐりまくる戦国時代に忍者に、なにより少年忍者とお姫様の身分違いの恋とか、キリキリのオサレ中二時空に引き摺り込まれる。
映画ファンに嫌われる「大演説」ですが私は好きです。あれは「演説」というより、虐げられ続けてきた者の溜まりに溜まった怒りの叫び・・・だと思うのです。なので今回のバルトーク卿の「罪の告白」も言ったれ!言ったれ!!だったり。
その後、久々に名前を聞いたと思ったらハリウッドデビュー!?しかも名優揃い!?どうしちゃったのキリキリ!?と期待と不安入り混じり観て来ました。
衣装やセット等のビジュアルは『GOEMON』の頃と変わらぬキリキリのオサレ中二時空で良かったのですが、何より「忠臣蔵」として「!?」過ぎる上にグッダグッダな帝国とキャラがダメでした。
>〜そもそも忠臣蔵とは違う気が・・・〜
>ライデン
忠臣蔵の大石と違い、どうせこうなるなら裁判の場でギザ・モットも斬ってしまえば良かったんじゃ・・・。
>キザ・モット大臣
小物過ぎて・・・。忠臣蔵の吉良上野介は地元では名君だったそうで愛知県民は複雑な思いだそうですが、こいつは官僚として優秀にも見えませんし(作中やってる事は賄賂の要求だけ)悪行が知れ渡っているのに民や諸侯はおろか皇帝や首相でも罷免出来ない程の巨悪にはとても見えません。ライデンとバルトーク騎士団なんかもう浪人なんだから、巨費を投じて防備を固めるより暗殺で消してしまえば安く安心なのに・・・。
皇帝も諸侯も内心バルトーク郷に「よく言ってくれた!」でライデン達には「よく殺ってくれた!」と思ってるかと。
>皇帝
この人も、自分でも手が出せないギザ・モットをバルトーク騎士団を上手く利用して始末した策士・・・とも取れますが、終始偉そうにしてる割に情けないというか。
そんな中・・・
>イトー(伊原剛志)
この人こそ主役でした!ダメダメな主君にも忠義を尽くし、密かに憧れていたライデンの堕落に嘆いたり、まさに騎士!なんだかスーパー戦隊シリーズの悪の組織の最強戦士(高確率で6人目の戦士になる)みたいで!!
あと、戸田さん。どうみても両刃の「SORD」を「刀」と訳さないでください。それに彼らは「武士」でなく「騎士」ですし。
賛否分かれそうだなという予想は案の定あたってましたが個人的には「紀里谷監督作品をスクリーンで見るのは11年ぶりだがとりあえうこれはこれで個人的には嫌いではない」感はあります。ただある意味で「何処にでもあるような作品」になってしまった感もあります(ただ「GOEMON」は未観賞なので判断するには早計かもしれませんが)。
「忠臣蔵」っぽいなと途中で思ってたら案の定そうでしたが「所々違うしせいぜい参考程度のオリジナルなんだろうな」と思ってたらそうでもなかったようで「これを正真正銘の『忠臣蔵』のつもりで作ってたのだとしたら流石の自分もこれはどうかと思うぞ」ってなりました。ギザ・モットは吉良としてはあまりに器がちっちゃいですし…。
あとはイトーが一番騎士道精神あったようにも見えてしまったりも。まあライデンも主人への義侠心はあったと思いますが。
>あと、戸田さん。どうみても両刃の「SORD」を「刀」と訳さないでください。それに彼らは「武士」でなく「騎士」ですし。
やはり戸田さんは誤訳してたのですね…。かくいう自分も誤訳と両刃であることの両方とも気づいてなかった挙句「この世界観だから『刀』にしたんだろうな」と思ってしまったほどなので人のことは言えないですが。
誤解を招く言い方をしてしまい、すみません。
劇中「Knight」を「武士」と表記した字幕や「SAMURAI」というセリフはありませんでした。
あと戸田先生に意訳誤訳云々言っていて自分もソードの綴りを間違えていました。正しくは「Sword」でした。ごめんなさい。
ただ戸田奈津子先生的に「忠臣蔵」が原作だからという解釈で武士道に拘り「Sword」を「刀」と訳したのだろうな・・・と思いまして。
個人的に本作は「騎士道社会」で忠臣蔵のような事件が起きた時、騎士達ならどうするだろう?という物語だったと思うのです。そこにあえて原作の武士的な描写に拘った翻訳を疑問に感じたもので、
>彼らは「武士」でなく「騎士」ですし。
と言ってみたのです。
監督さんの影響なのか、殺陣が日本風でしたね。
剣が割と幅が狭めである点と、片手での使い方。
まあ、本格定な中世でもないから、どうでもいいけれど・・・・